今回は、「S&P500に投資するにあたり、資金投入タイミングを調整するのは有効か?」について、ベンジャミン・グレアム流のバリュー投資手法の観点から考察してみます。
グレアムは「バリュー投資の父」と呼ばれるアメリカの経済学者・投資家で、株式市場を運否天賦の世界から、本格的な長期投資の世界に導いた第一人者です。日本では経済学と株式投資は別物として分離される傾向にありますが、米国では経済学者が投資家や経営者になることが多く、グレアムはその先駆者でした。
かつてコロンビア大学に通っていたウォーレン・バフェットは、グレアムの教え子の中で唯一「A+」をもらった生徒です。バフェットは後に「1ドルのものを40セントで買う哲学を学んだ」と述べています。
財務諸表を分析することで企業の「本質的価値」を求められます。その本質的価値よりも低い値段で取引されている株式を購入する、というシンプルな投資手法で資産を構築していくのが、グレアム流の投資手法です。
ここで持ち上がるのが、「S&P500という500社の平均株価であっても、割高な時と割安な時があるのでは?」という疑問ではないでしょうか。はたしてグレアム流にタイミングをうまく計ることで、インデックス投資の成績を高められるのか否か?早速、検証していきましょう。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
「S&P500をいつ買うべきか」迷っているすべての投資家へ
「インデックス投資にタイミングは関係なし」シーゲル博士の主張
ニューヨークダウが2万ドルを突破して、S&P500は2300ドルを超えています。
米国市場はリーマン・ショックのあった2008年から急激に落ち込み、2009年に底打ちしました。そこからの反撃が凄まじく、大きな調整がないまま上がり続けています。
インデックス投資家は、このように平均株価が上昇している局面でも気にせずに購入してもいいのでしょうか?
インデックス投資の研究者として著名なジェレミー・シーゲル博士は、「景気変動の予想はできないから、定期的にS&P500に買いを入れよ」「配当金はどんどん追加投資に使うべし」と説いています。
米国の株式市場は、過去200年にわたって上昇し続けています。株価は上がったり下がったりを繰り返しますが、本質的価値はどんどん上昇していきます。
前回記事でも紹介した「S&P500の年次リターン表」(英語版Wikipedia)の項目「Value of $1.00 Invested on 1970-01-01」は、1970年1月1日にS&P500に投資した1ドルが、その後どのように増えていったかを示すものです。
この表をわかりやすく修正して、10年ごとに横に並べたのが次の表です。
この表を見れば、1970年1月1日に投資した1ドルがどのように増えてきたかが、一目でわかります。視線を1つ落とせば10年後の資産価値がわかるようになっていて、いつ投資を開始しても、10年後には資産価値が2倍ぐらいに増えていることが分かります。
これは、「インデックス投資で資産を形成できる」ことのエビデンス(証拠)だと言えるでしょう。
S&P500に投資をして10年後に損してしまったケースは、1998年と1999年の2年間だけです(赤枠で囲いました)。しかしながら、それも11年後には利益になっています。
そこで、もっとわかりやすいように、10年後に何倍になったのかを色分けして書き加えたのが次の図表です。
前回も述べた通り、当時のエコノミストたちは「1980~82年にかけての厳しい景気後退」を予想していました。ところが蓋を開けると、1980年の10年後には3.69倍、1981年の10年後には5.06倍、1982年の10年後には4.48倍にまで、それぞれ資産が増える結果となりました。
エコノミストらの景気後退予想を信じて投資を手控えていた投資家は、とても大きな投資機会を逃したことになったのです。特に1980年代は、10年後には資産が3倍以上になるというゴールデンタイムでした。
いつ投資を実行してもよかったのです。シーゲル博士の主張は間違っていません。
しかしながら、ファンダメンタルズに基づいて投資判断をしている投資家の立場からすると、「いつ投資を実行しても大丈夫」「景気後退を予想することは無意味」と言われても納得できない人が多いのではないでしょうか?
シーゲル博士のインデックス投資理論には、「バリュー投資の生みの親で、バフェットの師匠でもあるグレアムの教義と、とても相性が悪い」という側面があるのです。
それに、運悪く1998年と1999年にS&P500への投資を開始した場合、10年後にはマイナスのリターンになったのも厳然たる事実です。
そこで次ページからは、「インデックス投資の“投資タイミング”を工夫することで、さらにリターンを向上させることは可能か?」を検証していきます。