記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年12月5日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
元経済学会会長と元日銀副総裁による「フェイクレポート」の疑義
「社会保障不安が不景気の重大原因」に根拠なし
財政制度審議会会長や日本経済学会会長を歴任した東京大学名誉教授の吉川洋氏と、前日銀副総裁の山口広秀氏が、山口氏自身が現在理事長を務める日興リサーチセンターから「低迷する消費」と題するレポートをこの度(10月30日)公表し、これが今、霞ヶ関、永田町界隈で話題になっています。
下記ロイターの記事では、このレポート公表が、「消費の低迷要因(を)、賃金の上昇不足と将来不安が2大要因と総括」するものととして報道されています。そしてその総括を踏まえ「政府に対して持続可能な社会保障制度の将来像を明示することを要望した」と解説されています。
https://jp.reuters.com/article/slumping-consumption-report-idJPKBN1DV3TL
また、この記事では山口氏・吉川氏はこのレポートの公表にあたって開催した「記者会見」にて、
「政府は財政赤字でも経済成長さえあればなんとかなるという話ばかりだ」(山口氏)
「名目賃金が大きく上昇しない中で日銀の異次元緩和で物価が上昇すれば、ややもすると実質賃金が下落する」(吉川氏)
出典:消費低迷を分析、アベノミクスに警鐘=吉川立正大教授・山口前日銀副総裁 – REUTERS(2017年12月5日配信)
と、アベノミクスを批判している様子も報告されています。
こうした背景から、このロイター記事は、
「消費低迷を分析、アベノミクスに警鐘」
という見出しが付与され、この「大御所2人」が、成長を目指してばかりのアベノミクスは間違いで、成長をさておいて持続可能な社会保障制度を「設計」すべきだ、と主張しているという様子が描写されています。
では、この両先生が提案する「国民が安心できる、持続可能な社会保障制度」とは何かと言えば――一般には、社会保障の持続可能な制度とは、「十分な財源が常時確保できるほどに、国民負担が十分に高い制度」を意味すると解釈できます。それは要するに「安定財源が確保できる財政」ということであり、それは結局「十分に高い消費税率」ということになります。
もちろんこのレポートでは両氏はそこまで「明言」していませんが、この両氏の主張が、今日の日本の状況下では消費増税を強力に後押しすると同時に、(山口氏の上記発言からも明確な通り)財政赤字を一時的に拡大する「大規模財政政策」を強力に否定するもの、すなわち、「緊縮財政」を強力にサポートするものなのです。