北朝鮮の核の脅威に対して中国が危機感を強めています。地政学的リスクを見極めるにあたっては、米国よりもむしろ中国のリアクションに要注意です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年11月29日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
ターゲットはどちらも中国?北朝鮮の核ミサイルと金融危機爆弾
経済・軍事両面で進む中国の弱体化
従来から「5年に1度の中国共産党大会までは中国経済も安泰だが、その後は一転要注意」との見方がありました。そして、その懸念が現実化しそうな状況となってきました。経済、政治(軍事)の両面で警戒すべき動きが見られます。そして中国株が先週末から下げるなど、市場も不安定になってきました。
まず、共産党大会後には、経済にある程度犠牲を強いるような思い切った経済改革も打ち出すと見られていましたが、その一端が見られます。11月17日には、金融機関に対して理財商品の元本保証を禁止する方針を公表しました。
これまで中国の投資家は、ハイリスク・ハイリターンの商品に投資し、いざとなれば政府が保証してくれると期待する文化がありました。習近平体制はこの文化を改革したいとしていますが、政府の負担を軽減し、政府依存の投資文化を改革する「国内要因」からくる改革か、はたまた米国から市場開放、市場の自由化を求められ、徐々に欧米型の市場の論理を導入しなければならなくなったからか。これは両方の要素が考えられます。
実際これまで中国は、トランプ大統領の米国から、貿易不均衡という「脅し」を背景に、北朝鮮問題の他にも経済面で様々な圧力を受けてきました。
例えば、中国の金融市場に米国資本(欧州のロスチャイルドも含む)の参入を認めさせられ、銀行や証券、保険分野に外国資本を約半分まで受け入れる方針を示しました。自国に欧米資本が入れば、経営やルールの面でも徐々に欧米型に合わせていかざるを得なくなります。
中国は「日本の二の舞」を踏むか
1970年代から80年代にかけて、米国が日本に対して金融自由化、資本の自由化を求め、徐々に日本の力を削ぐようになり、最後には「ハゲタカ」がその資本力と米国政府を背景に、日本の金融市場を食い尽くした経緯があります。現在の米国は、中国をまさにターゲットにして獲物を物色し始めました。
国有銀行に対しても、北朝鮮への制裁の結果次第では中国に金融制裁を課し、米国の決済システムから排除してドルをとれなくし、経営を弱体化する案が練られています。これはかつて、日本の銀行を弱体化するために、BISを通じて厳しい自己資本規制をかけたことと相通ずる面があります。4大国有銀行もターゲットになっています。
そして、すでに米国資本が中国の不良債権ビジネスに参画できるようになっています。中国の不良債権は公表されているもののほかに8兆ドルもある、との試算もあり、このビジネスは巨大な利益を米国資本にもたらす可能性があります。
その一端が今回の元本保証の禁止令であり、いずれ自己資本規制、欧米型会計ルールの押し付けなどに発展する可能性があります。
習近平主席は、市場にリスクを認識させ、政府依存からの脱却、自己責任の文化を根付かせる方向性を示しましたが、これはまさにロックフェラー、ロスチャイルドの求めるものにほかなりません。
今回の元本保証禁止の動きだけでも、個人の投資マネーは、理財商品から大量に流出し、より安全な商品(国債ファンド、MMFなど)に向かう可能性があり、リスク商品の相場下落リスクがあります。