タバコを吸える場所がどんどん消滅している。日本に住んでいると、世界からタバコが駆逐されるのは時間の問題に思える。だが、それでもタバコ企業の成長は決して揺るがない。投資家は嫌煙家も愛煙家も養分にして、さらに莫大な利益を得続ける。どういうことか?(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)
※有料メルマガ『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』好評配信中。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
人間の弱さと資本主義のルールが、投資家に莫大な利益を与える
「禁煙ファシズム」花盛り
タバコはよく知られた嗜好品のひとつだが、現在、先進国では極度に嫌われていて、その排斥ぶりはヒステリックで狂気じみている。
タバコ企業はコマーシャルも出せず、商品のパッケージには病気になった人々のグロテスクな写真がこれでもか、これでもかと印刷されている。
さらに、タバコには超高率の税金がかけられており、今や喫煙者は「タバコを買ってくる」と言わないで「税金を払ってくる」と自嘲して言うありさま。
テレビや映画でも、タバコを吸っているシーンは撮影できなくなりつつある。登場人物がタバコを吸うと不謹慎だとクレームがくるからだ。
現実社会でもタバコを吸う場所はどんどん消えていき、歩き煙草も条例違反となり、乗り物でも全席禁煙が当たり前になりつつある。
タバコを吸う人は、まるで犯罪者のような扱いになってしまっているのが現状だ。
それでは、そのような禁煙ムードの中で、巨大多国籍タバコ企業であるフィリップモリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、あるいはアルトリア・グループの経営状況はどうなっているのか?
世間から袋叩きにされてもビクともしないタバコ企業
これらのタバコ企業は苦境に落ちているのか。逆だ。今もこれらの企業は、過去最高に近い時価総額を維持している。
たとえば、フィリップモリスは現在約18兆円の時価総額であり、アルトリア・グループは約12兆円の時価総額を誇っている。フィリップモリス1社で、日本最大の時価総額を持つトヨタとほぼ同じ規模である。アルトリア・グループは、日本で2番目に巨大な企業であるNTTより1兆円も企業価値が高い。
いかにタバコ企業の規模が大きいのか分かるはずだ。日本のほとんどの優良企業は、時価総額で見ると「ただの図体のでかいタバコ屋」に勝てないのだ。
「株主に報い続ける」超優良企業
世間が騒いでいる中で、フィリップモリスの営業キャッシュフローを見ると、過去10年ほとんど一定のボックス内で推移して、何の打撃も受けていないことが見てとれる。
新しい規制があるたびに株価は乱高下するが、現金が転がり込む構図は変わらないのである。
どんなに規制しても打撃を受けずに生き残り、年間約3兆円もの利益を計上し、それを惜しみなく株主に配当としてばらまく。「タバコ会社は株主に配当を出すためだけに存在しているのか?」と苦言を呈する政府関係者さえいる。
実際、フィリップモリスは2008年にアルトリア・グループからスピンオフして以後、連続して増配を続けている。アルトリア・グループも同じで、ここ10年、ずっと増配に次ぐ増配を繰り返している。
ちなみに日本が世界に誇る巨大多国籍企業であるJT(日本たばこ産業)も2010年は1株あたり34円だった配当が今や140円に到達している。7年でもらえる配当が4倍になっているということだ。
これを見ると、「タバコ会社は株主に配当を出すためだけに存在しているのか?」という皮肉はあながち間違ったものではない。
タバコを吸う人間は決して消滅しない
世間から袋叩きにされ、数々の嫌がらせを受けているのに、したたかに生き残っているのがタバコ企業なのだ。
世の中が騒ごうが叩こうが、タバコを吸う人口は必ず残り、消えないのである。なぜか。ここに単純な事実がある。タバコは要するに「合法ドラッグ」だからである。嗜好品という名のドラッグだ。