中国の3強と呼ばれる、百度、アリババ、テンセントの決算を詳しく見ていきます。ヤフージャパンや楽天など日本企業と比較すると、規模の違いに驚きます。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2017年9月5日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:シバタ ナオキ
SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。
この差はもう縮まらないのか?決算の比較で実感する「世界の壁」
中国のインターネット業界は世界から「独立」している
今日は中国の「3強」と呼ばれる、百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)の決算を詳しく見てみたいと思います。
この3社は、中国でそれぞれの分野で圧倒的なマーケットシェアを誇っており、この3社の頭文字から「BAT」と略称で呼ばれることがあります。
中国のインターネット業界は、日本のインターネット業界とはまったく異なり、独立していると言っても過言ではありません。
この図にあるように、中国では検索エンジンにおいては百度がグーグルより圧倒的なマーケットシェアを誇っており、Eコマースに至ってはアリババが提供する「Tmall」がアマゾンを寄せ付けない勢いです。さらにソーシャルメディアに関してはフェイスブックの何十倍も大きい存在であるのはテンセントが提供する「WeChat」です。
*画像出典:One chart shows how different the internet landscape looks in China(BUSINESS INSIDER 2017/8/17)
今回の記事では、中国の3つの巨大なインターネット企業の決算を眺めるとともに、日本のマーケットリーダーとの規模感の比較を行ってみたいと思います。
検索王者 = 百度
百度というのは、中国版のグーグルのような検索エンジンのことです。
直近の決算を見てみます。
*画像出典:BIDU Q2 2017 Earnings Release.pdf (2017/7/27)
売上が178億元(約2,926億円)、営業利益が42億元(約687億円)となっています(換算レートは1中国元=16.36円)。
営業利益は前年同期比で+47%と非常に大きく伸びていますが、売上で見ると前年同期比+5.6%と伸びが鈍化しています。
これは百度だけの問題ではなく、グーグルやヤフージャパンでも同じ課題があり、ユーザーがスマホに移行すればするほど1ユーザあたりの検索回数が減るというジレンマによるものです。そういった意味で、百度はスマホ対応に若干苦しんでいるとも言えます。
Next: 楽天とはまさにケタ違い。EC王者「アリババ」の売上と営業利益は
EC王者 = アリババ
アリババは当メルマガの読者の方であればご存知の方も多いかもしれませんが、中国Eコマース最大のプレーヤーです。
サービスとしては主に3つあります。「アリババ」と呼ばれる190カ国以上で利用されている国際BtoBのマーケットプレイス、「タオバオ」と呼ばれるCtoCのマーケットプレイスは2016年の年間流通総額がなんと35兆円と推計されています。日本の楽天やヤフーショッピングと同じようなBtoBtoC型のマーケットプレイスの「Tmall」は、2016年の年間流通総額が21.6兆円と推計されています。日本の楽天の2016年の流通総額がトラベルを含めて3.95兆円なので、大変な規模の違いです。
直近の決算を見てきます。
*画像出典:Alibaba Group Announces June Quarter 2017 Results(2017/8/17)
売上が501億元(約8,210億円)、修正後EBITDA(原価償却前営業利益)が251億元(約4,110億円)となっています。 売上の前年同期比が+56%、EBITDAの前年同期が+68%と非常に大きな伸びを見せています。
メッセンジャー・ゲーム王者 = テンセント
テンセントは「WeChat」と呼ばれる、日本で言うところの「LINE」に相当するメッセンジャーサービスを提供するだけでなく、こちらもLINEに似ていますがソーシャルゲームも提供する会社です。 WeChatの登録者数は11億人超と言われいているので、LINEの登録者数7,000万人と比較すると、こちらも規模の大きさに驚きます。
昨年ソフトバンクから、「Clash of Clans」などのゲームで人気のフィンランドのスーパーセル社を買収したことで、中国だけではなく欧米のゲーム売上も大きくなってきています。
直近の決算を見てみます。
*画像出典:TENCENT ANNOUNCES 2017 SECOND QUARTER AND INTERIM RESULTS(2017/8/16)
売上が566億元(約9,261億円)、営業利益が226億元(約3,690億円)となっています。売上の前年同期比の伸びが+59%と非常に高いことに加え、営業利益率が40%を超えていて非常に利益率が高いというのも特徴です。
Next: 中国3強BATの中にも明暗? 日本企業との比較でわかる強みとは
まとめ:中国3強BATの比較
ここでは簡単に3社の比較を行ってみたいと思います。指標を統一化するために営業利益ではなくEBITDAを記載して、1中国元=16.36円というレートですべての数字を日本円に直してあります。
この表を見ていくつか言えることがあります。
- 売上の成長率の高さからアリババとテンセントの2社が非常に上手くいっている一方で、百度が苦戦していることがよくわかります(原因はいくつかありえますが、一番大きいのは、スマホ対応の波に乗れたかどうかではないでしょうか)。
- 2つ目にEBITDAの伸びを見ると、3社とも前年同期比+40%を超えるスピードで成長していることがわかります。
- 3つ目に利益率を見ると、EBITDA率で33%から50%という非常に高い利益率を誇っていることもよくご理解いただけるでしょう。
日本の各セグメントのトップ企業との比較
続いて日本の各セグメントのトップ企業との比較を行ってみたいと思います。検索広告分野はヤフージャパン、Eコマースは楽天、メッセンジャーゲームはLINEを比較対象として選びました。
以下の表は、それぞれ直近の一四半期の比較結果になります。
表の1番下に出ている数字は、中国のトップ企業と日本のトップ企業の売上・EBITDAの倍率です。
この表から読み取れることをいくつかまとめておきます。
- ヤフージャパンの売上の成長率が百度の売上の成長率と同程度であり、やはり検索をコアにしていたプレーヤーのスマホ対応の難しさがあげられると思います。
- Eコマースでは前年同期比+20%と早いスピードで成長しているアリババに比べると楽天の成長スピードが見劣りするだけではなく、すでにアリババは楽天の売上の3.6倍、 EBITDAで9.4倍もの規模になってしまっているという事実が挙げられます。
- メッセンジャー分野でLINEの売上成長率が前年同期比+32%に対してテンセントは+59%で成長していることに加え、売上ベースでテンセントはLINEの23.3倍も大きいです。
日本バッシングをしたいわけではありませんが、数字を客観的に見る限り、中国のトップ企業の方がすでに日本のトップ企業よりも規模が大きいだけではなく、成長率もずっと高いという厳しい現実が見えてきてしまいました。つまり、このまま放っておくと、差がどんどん開いていくことになってしまいます。
スマホブームに乗って、あっという間に規模でも成長率でも日本を飛び越えてしまった中国の3強の決算を取り上げてみました。
皆さんはどう思われましたでしょうか?
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『決算が読めるようになるノート』 2017年9月5日号『中国3強(百度・アリババ・テンセント) vs 日本3強(ヤフー・楽天・LINE)の決算比較』より抜粋
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