世の中は損得で動いている。善悪で判断すると多くを見誤る。法治国家の法律とはその損得を反映したもので、だからこそ圧力団体やロビイストが存在するのだ。(『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』矢口新)
プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。
※矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』好評配信中!ご興味を持たれた方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
半島情勢はトランプ、プーチン、習近平、安倍晋三に「追い風」だ
善悪で判断すると多くを見誤る
8月29日朝午前6時4分頃、すべての放送局の画面が黒くなり、Jアラートが発信された。後に、北朝鮮が午前5時57分頃、首都平壌の順安一帯から東方に向けて弾道ミサイルを発射、日本上空を通過したと発表された。
報道を受けて、ドル円レートは下落、日本株は安く始まった。韓国株も売られている。
北朝鮮情勢については、これまでも何度か繰り返してきたが、私の見方は変わらないので、繰り返しておきたい。もっとも、メディアなどで報道されている見方とは違うので、1人の元ディーラーの見方として、参考にしていただきたい。
断っておくが、私は親北朝鮮でもなければ、親韓国でもない。親中国でもない。オーストラリアで教育を受け、米英で勤め、カナダにも親戚がいるので、心情的には、どうしても、そちらに近い。とはいえ、反北朝鮮でもなければ、反韓国でもない。反中国でもない。政治家やメディアに煽られて、好き嫌いまで左右されたくない。
世の中の基本は損得で動いている。善悪で判断すると多くを見誤る。法治国家とは、法律が行動の判断基準となる国家で、善悪ではない。その法律は、多くの場合は損得を反映している。だからこそ、圧力団体やロビイストが存在する。
本音と建前で言えば、本音が損得、建前が善悪だ。この時、政治家やメディアは建前を述べ、事業家や資金運用者は本音を見る。損得と善悪をしっかりと区別していないと、建前論に押し切られることになる。
例えば、損得と善悪を混同しているのが、「唯一の被爆国の責任」というものだ。加害者の責任を問わずに、どうして被害者の責任を問うのか?これでは、レイプされるのは被害者の責任だというのと同じだ。
被爆国としての責任があるとすれば、核兵器の廃絶を訴えるべきで、核保有国の利益だけを守る核拡散防止を擁護することではない。北朝鮮の核が悪であるのなら、米国やロシア、中国の核が善であるはずがない。ここにあるのは、米国、あるいは、大国に従った方が得だという、損得勘定なのだ。
北朝鮮のミサイル発射で誰が「得」をするのか
北朝鮮情勢でも、善悪ではなく、損得で見ると違うものが見えてくる。北朝鮮がミサイル発射を繰り返すことで、誰が得して、誰が損するかという見方だ。
結論から述べれば、得をしているのは、米国、中国、ロシアだ。損をしているのは、日本、韓国、台湾だ。北朝鮮は、これまで損をしてきたが、核を持つことで、大逆転となるか、破滅となるかの賭けに出てきたという見方だ。
第2次世界大戦後の世界は、自由主義国と社会主義国という色分けがなされていた。社会主義国は、自由主義国にとって、外側からの脅威だけでなく、内側から政府を転覆させるという脅威でもあった。そのため、自由主義国陣営を主導する米国は、自陣営を力だけで押さえつけることができず、懐柔することも必要だった。戦後の日本の発展は、奇跡ではなく、冷戦構造の果実でもあった。
ところが、ソ連が崩壊し、中国が市場経済に舵を切ったことにより、米国にとって社会主義はもはや脅威ではなくなった。このことは、日米安保条約の仮想敵国が事実上なくなったことを意味する。とはいえ、これまでに手に入れた西太平洋での覇権を手放すことは、米国の国益に反する。新たな仮想敵国が必要だった。
Next: 侮れない金正恩。北朝鮮もまた「損得勘定」で暴れている