12月3日、ジム・ロジャーズの講演会を聴くために、東京ビックサイトまで行ってきました。私が確認したかったのは、「このままアベノミクスが突き進めばどうなるのか?」の一点です。
しかし、やはり今までの考えが覆るようなエビデンスは見つからず、私の結論も変わらずです。むしろ、後押ししてしまった感じです。2013年の開始当初から、アベノミクスに懸念を表明してきた投資家の一人がロジャーズでした。
講演会ではメディアに出ていない情報もキャッチしましたが、まず本稿では、ジム・ロジャーズの近年の発言・主張を振り返って、その「日本悲観論」の理由を明らかにしたいと思います。(『ウォーレン・バフェットに学ぶ!1分でわかる株式投資~雪ダルマ式に資産が増える52の教え~』東条雅彦)
日本経済の将来を「全否定」 天才ジム・ロジャーズの真意とは?
日本は素晴らしい国だが、投資はできない
ジム・ロジャーズは、一貫してアベノミクスを非難しています。
アベノミクスが始まったのは2013年からです。ロジャーズは、安倍首相がアベノミクスを宣言した直後から日本株を購入して、アベノミクス相場の初動では利益を拾っています。
ロジャーズ自身はとても日本のことが好きで、文化的には素晴らしい国だと評価しているのです。
しかし、日本経済の将来の見通しについて尋ねると、急に顔を曇らせて、「全否定」をし始めます。ロジャーズは、「私たちのような投資家にとっては良いかもしれないが、長期的に見れば、このような政策は破たんを招く」と言って譲りません。
本稿では、その一貫してぶれないロジャーズの発言を、関連する経済データと合わせて検証してみます。
アベノミクスの失敗を予言(2013年10月)
アベノミクスの一本目の矢とされる「日銀の異次元緩和」は、2013年4月4日に実施が発表されました。「2%の物価安定目標」を達成するまで継続することが決定されます。
- 物価安定の目標は「2%」(CPI前年比)
- 達成期間は「2年」を念頭にできるだけ早期に
- マネタリーベースは2年間で「2倍」に
- 国債保有額・平均残存期間は2年間で「2倍以上」に
「2」という数字をキャッチフレーズに、アベノミクスはのろしを打ち上げました。そのアベノミクスの開始から半年後の2013年10月15日、『THE WALL STREET JOURNAL』に掲載されたジム・ロジャーズの発言が以下です。
Q:
日本についてはどうか?A:
日本株は相場が上昇した後の5月に売却したが、それでも少し早過ぎたかもしれない。というのも、これだけの流動性があれば日本株はもっと上昇し得るからだ。パーティー会場を後にした後、そこに戻るべきか否か考えていたが、自分が疑わしいと思っていることにかかわって良かったことはあまりない。Q:
日本にとっての長期的な問題とは何か?A:
日本の根本的な問題は人口動態だ。移民を受け入れたり、出生率が上がったりすれば、日本はとても魅力的になり得る。しかし、そうはなっておらず、財政出動もやめなければならない。日本は世界最大の対内債務国だが、安倍首相はさらに政府支出を増やすつもりだという。この10年間ほど、世界中の政治家たちが、過剰債務という問題をさらなる債務で解決すべきだと言っていることに私は驚がくしている。出典:通貨不安に要注意―伝説的な投資家であるジム・ロジャーズ氏に聞く – THE WALL STREET JOURNAL
別に、日本政府は「債務問題をさらなる債務で解決しよう」とは一言も言っていません。しかしジム・ロジャーズは、最初からアベノミクスの本質を見抜いていました。
私たちは、政府筋の情報や経済学者よりも、投資家から情報を収集すべきです。このような本質を見抜く力がずば抜けているため、ジム・ロジャーズは成功してきたのです。
あと、ちゃっかりアベノミクス相場の初動で儲けたことを告白していますね。実は、ジョージ・ソロスもまったく同じ行動を取っていました。
2013年、アベノミクスの量的緩和政策による円安相場で10億ドルの利益を得る。また同年にクォンタム・ファンドは、55億ドルもの利益を上げた。これはヘッジファンド史上最高額であるという。
一流の投資家は、こういうチャンスを絶対に見逃しません。
ジム・ロジャーズ「安倍首相の施策は日本を破壊」(2014年11月)
2014年11月12日、日本経済新聞に「安倍首相の施策は日本を破壊」という、少し過激なタイトルの記事が掲載されました。次にその一部を引用します。
Q:
日銀が追加的な金融緩和を発表するなど、アベノミクスを巡る新たな動きが目立ちます。どのように評価していますか。A:
安倍首相の施策は日本を破壊している。日銀による追加的な金融緩和はさらに円安を進めて市場を喜ばせ、安倍氏の再選を狙うものだろう。私のような投資家や、一部の輸出企業には良い。だが、若者をはじめとする大半の日本人には悲惨なことだと思う。日本は対外的には債権国だが、対内的な巨額の債務を賄いきれなくなっている。なのにもろもろのコストは上がり、生活水準が低下するからだ。歴史的にみても、自国通貨安で本質的に経済が救われた例はない。欧州や南米の様々な国が試みたが、一時的な刺激にはなれど長期的には成功しなかった。年金資産の運用見直しや少額投資非課税制度(NISA)導入など、投資家にとって良い政策もあった。
だが、大きな流れを誤っており、あの時にお札を刷りすぎて問題を深刻にしたのだと10年後に振り返ることになるのではないか。
「自国通貨安で本質的に経済が救われた例はない。欧州や南米の様々な国が試みたが、一時的な刺激にはなれど長期的には成功しなかった」この点はとても重要でしょう。
歴史的なデータを重視するのが、ロジャーズの思考法です。結局、人類の歴史は同じことを繰り返している、という主張が根底にあります。バフェットもロジャーズと同じように「歴史」に着目しています。
「我々が歴史から学ぶべきなのは、人々が歴史から学ばないという事実だ」とは、ウォーレン・バフェットの言葉です。