第2、第3の予想はどうなったか?
前ページから引き続き、リーマン・ショック前の2つ目の予想を見ていきます。
予想2『落ちるドル、限界以上に上がり続けるユーロ』
諸外国のドル保有意欲が減退してしまっている。すでにアメリカ国外を流通するドルはあまりにも多く、資産をドル以外の通貨に分散させようと、誰もが必死になっている。その結果、ドルに対する通貨準備の最大の対抗馬というべきユーロの為替相場は、すでに維持不能の高水準まで押し上げられてしまっているのに、まだまだ上昇しそうだ。(P194より引用)
為替の予想が得意なはずのジョージ・ソロスが珍しく外しています。リーマン・ショック後、ドルに対してユーロはどんどん安くなっていきました。
2008/01/01:1ドル=0.6728ユーロ
2009/01/01:1ドル=0.7827ユーロ
2010/01/01:1ドル=0.7339ユーロ
2011/01/01:1ドル=0.7305ユーロ
2012/01/01:1ドル=0.7647ユーロ
2013/01/01:1ドル=0.7340ユーロ
2014/01/01:1ドル=0.7415ユーロ
2015/01/01:1ドル=0.8859ユーロ
2016/01/01:1ドル=0.9228ユーロ
2016/11/02:1ドル=0.9038ユーロ
ドル離れどころか、一貫してドル高が続きました(1ドルと交換するのに、より多くのユーロが必要になっているので「ドル高ユーロ安」です)。ソロスの予想に従ってドルを売っていた投資家は、痛い目に遭ったことでしょう。
予想3『アメリカがくしゃみをしても新興国は大丈夫!』
世界経済のGDPの七割を占める先進諸国がこれまで述べてきたような調子だが、世界経済全体として楽観材料もないわけではない。産油諸国といくつかの発展途上国に、とても好ましい動きがあるからだ。かつて「アメリカがくしゃみをすれば世界が風邪をひく」というのが通例だったが、もはやそういう時代ではなくなったようなのだ。(P199より引用)
※現在では「発展途上国」ではなく「開発途上国」や「新興国」と訳するべきですが、日本語版書籍の文面をそのまま引用しています、ご容赦願います。
実はソロスは、この予想も外しています。当時、「デカップリング」説が強く信じられていました。
デカップリングとは、アメリカ経済が停滞しても、BRICsなどの新興国が高成長を維持しながら、世界経済を牽引していくという現象です。カップリングとは「ある物とある物が連動する」という意味ですが、デカップリングとはその逆に「連動しない」ことを指します。
ソロスは2冊目の書籍で、このデカップリング説を信じたことをとても反省していました(後で詳しく触れます)。
予想4「中国は将来、『アメリカの覇権』に対する挑戦者に」
中国はジョージ・W・ブッシュが大統領に選出された時点で予想されていたよりもずっと早くアメリカの覇権に対する挑戦者になりそうだ。<中略>躍進著しい中国をいかにして国際秩序の中に迎え入れるかかが、アメリカ次期政権の最大の課題になる。(P202より引用)
この予想は見事に的中しています。中国のGDPは2010年に日本を抜いて、世界第2位の規模となり、国際的な地位も向上してきています。
このように、1冊目の書籍で語られたソロスの予想は、金融危機の最大の引き金を引くことになったサブプライムローンバブルの崩壊を的確に予想し、的中させていました。一方で、それ以外の予想の精度には少しバラツキがある印象です。