都議選と前後して、安倍内閣の支持率が危機ラインまで低下しています。産経世論調査での異常な高支持率も、安倍首相の判断を狂わせた一因だったでしょう。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2017年7月6日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
自民党は都議選でいったい何に敗れたのか?ポスト安倍の行方は
都民ファーストに流れた「民意」
森友学園、加計学園における安倍発言、稲田防衛庁長官の失言、萩生田内閣官房副長官の虚言、豊田真由子議員による暴言のICレコーダーと続いて、相当数の国民が安倍政権に愛想を尽かし、都民ファーストに流れました。暴言は、兵庫県の野々村竜太郎元議員の「泣きわめき」に類似しています。しかしユーモアがない点がもっとひどい。
都議選の結果は、「愛想を尽かされた」というのが、ぴったりの表現でしょう。公平に見て、国会答弁と記者会見の言葉が、許容度を超えてひどすぎました。自民党はこの情報時代に「映像の効果(表情と身振りの言語)」を軽視していたのです。YouTube全盛の時代、文字よりも身振りがより多くを伝えます。
自分の言葉をもたない安倍首相
安倍首相も含み、重要で微妙なところのある政策答弁では、皆が官僚の作文を読んでいます。まれに自分の言葉で語ると「失言または強弁」にしかならない。「黙々と答弁書を読む首相」です。当方、国会中継はよく見るほうです。
反論を恐怖する体質
菅官房長官の記者会見でも、「追求」は記者クラブの自主規制で事実上、禁止です。安倍政権では、ジャーナリズムが自分で手足を縛っています。これも「反論を極度に嫌い、反論されると動揺して興奮し、攻撃的な言葉を使う」安倍首相の性格から来ています。
予想外の選挙結果
しかし自民が23議席、小池支持勢力が79議席で過半数を占めるという結果は、当方にとっても予想外でした(都民ファーストは49議席)。都民ファーストは、30議席と見ていたからです。都議会の過半数は64議席です。自民は60名の候補者のうち、37人が落選しています。
投票数では、(1)都民ファースト33.7%、(2)自民22.5%、(3)共産13.8%、(4)公明13.1%、(5)民進6.9%、(6)ネット1.25%、(7)維新0.97%です。民進党も、前々回の都議選(09年)では40%の獲得票で圧倒的な第一党であったにもかかわらず、悲惨です。
都民ファーストは支持率の面で、マクロン新大統領の新党である「共和国前進」に似ています。既存政党が惨敗し、突如、マクロン新党が308議席をとって、単独過半数を占めたのです。この「共和国前進」の政策は、規制緩和と自由競争、民営化、自由貿易、緊縮財政、親EUです。
日仏に共通の現象として、「既存政党に愛想を尽かした国民」が、「政策はよく分からないが、過去とは違うことをやりそうな新しい政党」を選んでいます。古代の天皇制の時代、倦(う)んだ民に対して行われたのは「遷都」でした。これに似ています。
政治権力は、国民が与えるもの
民主制では、政党と政治家に「政治権力」を与えるのは国民の支持率です。権力(Power)とは、相手が望まないことでも強制して行わせる力です。
独裁制の北朝鮮でも金正恩氏への国民の支持が、中国でも習近平氏への人民の支持が、政治権力を与えています。国王的な立場でも、国民の支持がないと、権力を発動することはできません。
この観点で言うと、「安倍一極」と言われる権力を安倍首相に与えてきたのは、政権支持率の高さでした。権力は、国民が与えるものです。
「高い支持率」という錯覚
内閣が、森友学園や加計学園への介入問題で、「木で鼻をくくったような答弁(強弁)」しかしなかった理由は、現実の支持率が下がる中、メディアのデスクを集めての定期会食の習慣を作った安倍首相自身が、「自分への支持率は高い」と思い込んでいたからです。
大勲位の中曽根元首相は、「最近の安倍君は、『まるで着ていないように感じる最高の布を作りました』と献上され、本当に裸になって王宮を歩いた王様になっている」と警告しています。
安倍首相は、基礎的な支持率は高いと判断し、「根拠を示さない完全否定でも、森友問題や加計問題を乗り切れる」と誤って判断したのです。