AI(人工知能)が売買を行う「クオンツ系ファンド」の割合が、人が投資判断を行うヘッジファンドの割合を上回りました。人間が勝つ余地はあるのでしょうか?(『高梨彰『しん・古今東西』高梨彰)
※本記事は有料メルマガ『高梨彰『しん・古今東西』』2017年5月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高梨彰(たかなし あきら)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
アルゴリズムが猛威を振るう市場に、生身の人間は打ち勝てるか
機械に負けても将棋はなくならない。でも相場は…
WSJ(Wall Street Journal:ウォールストリートジャーナル)電子版に“The Quants”(ザ・クオンツ)というタイトルの特集記事があり、コンピューターを駆使した取引の支配について描かれています。
その記事によると、2017年に入り、アルゴリズム取引などプログラム化された売買を行う株式ファンド(クオンツ系)の割合は、人が投資判断を行う伝統的なヘッジファンドの割合を上回ったとのことです。クオンツ系は27%、他のヘッジファンドは22%。2016年はどちらも25%程度でした。
将棋の世界でも名人が将棋ソフトに敗れましたが、相場の世界でもクオンツ系の割合がさらに増えそうな情勢です。クオンツの勢いもさることながら、米国の金融規制により大手金融機関を離れ、自ら立ち上げたヘッジファンドの運用成績が軒並み冴えないことも、今日の現象を引き起こしていると思われます。
穿った見方をすれば、大手金融機関で成績を上げてきたトレーダーも、組織の中で「寄らば大樹の陰」に過ぎなかったとも言えそうです。
「機械vs機械」がもたらす限界とは
この勢いが続くと、相場の売買すべてが機械化されてしまいそうです。日本でも、ファンドラップより、AI(人工知能)を使った自動運用を勧める金融機関が出てきています。
実際、クオンツ系ファンドの割合は増えるのでしょうが、直感として、すべてクオンツ系に置き換わることはなく、ある一定の割合で限界が来るように思えます。
理由は簡単です。仮にすべてが機械化された場合、「機械vs機械」による相場が繰り広げられます。そこで「優秀」とされるプログラムばかりをAIが駆使した場合、相場に割高・割安が無くなります。
変化が起きるとすれば、例えばとある企業が業績を上昇修正させるとして、その事実を直前まで隠し、発表した瞬間に価格を適正な水準へと移行させる、そんなときだけです。
このことはよく言われていることで、個別株や流動性の低い市場では、クオンツ系以外にも入り込む余地があります。将棋や囲碁とは異なり、従来にないルールや事実がポッと出てくるケースが往々にしてあるためです。そこまでAIが読むようになればそれはそれで凄いことですけど、世界中の人々の営みを究極まで監視する必要が出てきます。
これ、ちょっと気にしていることです。相場に限らず、AIの活用には日々刻々と変化する事象を的確に捉えることが不可欠です。そのためには、世の中すべてを監視してしまえば事足ります。これが誰のためになるのかはわかりませんが、権力を持つ人ほど、そんな活用を実践に移したがるようにもみえます。
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