米大統領選の第1回テレビ討論会は、大差でクリントン候補の勝利に。しかし、トランプ陣営はあと2回の討論会で挽回を図り、市場混乱による起死回生を狙う可能性があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年9月28日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
大統領の椅子をあきらないトランプ「次の一手」で市場大混乱?
起死回生のジョーカー
相場にも政治リスクが多くのしかかる季節となりました。その第1弾が、27日に行われた米大統領選挙候補者によるテレビ討論会でした。
1億人の米国人がみると言われる注目の第1回は、ヒラリー・クリントン氏が無難にこなし、CNNの世論調査では62対27の大差でクリントン候補の勝利、と評価しました。「トランプ・リスク」を意識していた市場はひとまず安心したようです。
しかし、市場における政治リスクはこれで終わったわけではありません。
まず、今回準備不足で劣勢であったトランプ陣営は、あと2回の討論会で挽回を図るでしょうし、起死回生の策を市場混乱の形で仕掛けてくる可能性があります。もっとも、何もきっかけがなければ市場を揺さぶることもできませんが、不幸にして「材料」が少なくとも3つあります。
第1のカード「ドイツ銀行」~米司法当局を動かしたのは何者か?
まず第1に、ドイツ銀行の揺さぶりです。
ドイツ銀行は米司法当局から、不動産担保証券(MBS)の不正販売を問われ、140億ドル(1兆4千億円)の支払いを求められています。
この巨額な負担が同銀行の経営を圧迫しますが、ドイツのメルケル首相は同行への支援を拒否したと報じられています。このため、米国市場でも同行の株価は7%あまり低下しました。
それにとどまらず、このあおりを受けて、26日の米国ではバンカメ株が2.8%、JPモルガン株が2.2%下落するなど、銀行株全般が売られました。
ウォール街とのつながりが指摘されるクリントン候補の揺さぶりには格好の材料で、米司法当局を動かした力、メルケル首相に働きかけた勢力が取りざたされています。
ドイツ銀の株価は10.6ユーロ台まで下げ、過去最安値となっています。当事者は否定していますが、同行には資本増強が必要との見方が出始めています。
欧州を揺さぶり、金融界に打撃を与えることは、トランプ陣営にはうまみがあります。