私は、民間銀行や金融機関が仮想通貨を発行して、それが広く流通することについては賛成しています。今まで考えもつかなかった市場が、次々と創造されるからです。しかし、中央銀行が仮想通貨を発行するとなれば話は全く別です。今、何が起こっているのでしょうか?(『カレイドスコープのメルマガ』)
※本記事は、『カレイドスコープのメルマガ』 2017年5月18日第207号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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「不可逆的で悪魔的な進化」中央銀行発の仮想通貨から逃げろ
米ドルでの外貨準備高を減らす国々
米政府は、過去数十年にもわたって債務上限の引き上げを行って年度予算案を通してきましたが、今回は、かなり緊迫した状況に置かれています。
それは、現行法における債務上限の期限が3月15日に迫っていたからで、それまでに確実に予算成立の見通しが立たない場合、いよいよ米政府のデフォルト(支払い不履行)が現実的な問題となってトランプ政権に覆いかぶさるという事態に至る寸前だったからです。
しかし、2月の末日になって、米行政管理予算局(OMB)が「ムニューチン財務長官が臨時の財政措置を適用する」と発表したことで、デフォルト回避への道筋が示され、市場の不安材料は、とりあえずは遠くに押しやられた形となりました。
米・財務省は臨時の財政措置を講じることで、3月15日の期限到来後も借り入れを続け、今後、数ヵ月はデフォルトを回避することが可能になったのです。
しかし、それも2017年9月末の会計年度末までことで、それ以降は再びデフォルト危機が叫ばれることになります。
少しずつ深刻度を増すデフォルト騒ぎ
前回のデフォルト騒ぎは、2015年10月末、その前は2013年10月末でした。
米政府のデフォルト騒動も、回を重ねるごとに少しずつ深刻度が増していき、各国では、ドル崩壊に備えて、米ドルで保有している外貨準備高を他の通貨に分散しようという動きが強まっています。
現在、世界の外貨準備の6割程度が米ドルで保有されていますが、中国は、最初のデフォルト騒動が起こった2013年10月に、公式に「非アメリカ化」を公言し、事実上のドル決別宣言を行いました。
その翌年2014年の6月には、ロシアもドルへの依存度を減らすと宣言し、米ドル以外に中国の人民元で貿易決済を行うと表明。
そのとき、ロシアの国立銀行(VTB)の最高責任者に、「ドル以外の通貨の使用を拡張することが、銀行の主なタスクのうちの1つである。中国との2国間貿易が広がるにつれて、中国人民元とルーブルとの相互使用を展開していくことは、アジェンダの最優先事項である」とまで言わしめたのです。
また、中国はヨーロッパとの取引においてもドルでの決済を削っていくことを決めており、今後、米ドルでの外貨準備高が減少していくことは確実です。
中国とロシアのこれらの声明は、ドルによる覇権が完全に終わったことを告げたのです。
同時に、中国は世界中から金(ゴールド)の輸入を進めており、2013年10月にリークされた情報によれば、「今後、5000トンの金(ゴールド)を買い増しする計画がある」とのこと。
金は世界中から上海に集められているのです。
また、中国政府は、一般国民にも金(ゴールド)の保有を積極的に薦めており、公式発表による正確な数字ではないものの、いまや、政府以外で市民が保有している金(ゴールド)の総量はインド国民のそれと並ぶほどの膨大な量が備蓄されていると推定されています。
「通貨戦争」はすでに始まっている
こうした動きを見ていくと、中国は人民元を金(ゴールド)で裏付けることによってドルとの通貨戦争に勝利し、米国の弱体化を図るという遠大な計画があることが分かるのです。
ロシアもまた、世界中から金を買い集めており、世界最大の天然ガス生産事業者・ガスプロムを始めとする多くの大企業が、米ドルでの決済からユーロなど、他の通貨で決済を行う契約に署名を済ませています。
ロシアにしても中国にしても、ドル以外の通貨での決済を進めるのは、米国が、いよいよデフォルト不可避の事態になったときは、ドルが暴落して購買力が低下してしまうからです。
つまり、米ドルで外貨準備を持つこと自体がリスクとなっているのです。
もっとも、ロシアが金(ゴールド)の備蓄量を増やしているのは、中国のような覇権主義によるものではなく、西側の銀行システムからの完全脱却を目指しているからです。
両国は、ロスチャイルドの中央銀行システムから吐き出された不換紙幣ではなく、人民元やルーブルを金(ゴールド)に裏付けされた強い「正貨」にして、来るべき金融危機を乗り越えようとしているのです。
不換紙幣のドルを破棄するロシアと中国
ロシアは、今年3月、ロシアのルーブルと中国の人民元での取引業務を行うため、モスクワに手形交換所組合銀行を設立しました。
この交換所によって、国家通貨の運用を拡大する際に、人民元とルーブルの為替レートのボラティリティ(価格変動の度合い)を低下させることが可能となり、為替変動リスクを軽減することができるのです。
モスクワの手形交換所組合銀行は、明らかに、二国間貿易の取引高を拡大しようという目的で設立されたものです。
また、中国工商銀行(ICBC)は、ロシアにおける中国人民元の決済銀行として、3月末から正式に営業を開始しています。
ロシア中央銀行の頭取は、「中国とロシアの金融規制当局は一連の主要な協定に署名し、これで両国は、新たなレベルの金融協力に一歩前進したことになる」と抱負を語っています。
中国国家税務総局によると、中国とロシアの間の貿易回転率は、年率で1月に34%増加したとのことです。また、2017年1月の二国間貿易額は65億5000万ドルで急激に伸びています。
ロシアからの輸入は39.3%増加し、31億4000万ドルの増加分となっています。一方、ロシアへの中国の輸出は、34億1000万ドルの増加で、29.5%の伸びとなっています。
両国が、米ドルに対する依存度を減少させている一方で、手形交換所の設立により、両国は二国間の貿易と投資を、より安全・円滑に拡大することができるです。
今後、ロシアにおける人民元の流動性が確保されれば、それは取引の拡大へとつながっていきます。手形交換所は、中国人民銀行とロシア中央銀行が協力関係を深めるための第一ステップです。
さらに、ロシア中央銀行は今月初めに北京に事務所を開設して、中国の金融当局と情報交換を行っています。この北京事務所は、ロシアが初めて外国に設置した支店になります。
ロシアと中国の第二ステップとして計画されているのは、金(ゴールド)の取引のための共同組織の設立です。
ロシアは中国と歩調を合わせるようにして世界中から金(ゴールド)を買い集めてきましたが、その真意について、ロシア中央銀行のセルゲイ・シベツォーフ副頭取は、昨年、中国を訪れたとき、このように述べています。
「両国は、二国間の金(ゴールド)取引を円滑化したい」――
まず、ロシアと中国の第一ステップは、リスクが高まっている米ドルでの外貨準備を減らし、貿易決済を米ドルを介在させることなく両国の通貨で直接的に決済するというもの。
さらに、手形交換所を設立したことによって、ルーブルと人民元との間の為替変動による一方的な損失を防ぐための措置を講じたということです。
そして、ルーブル、人民元ともに金(ゴールド)によって一定程度の裏付けがなされれば、両国の貿易や投資を始めとする金融業務に関しては、リスクが相当軽減されることになります。
両国のどちらかに問題が発生した場合は、最終手段として金(ゴールド)の現物で決済できるということになります。
このことは、国際決済銀行(BIS)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行による西側の“ロスチャイルド通貨システム”からの脱却を果たすことを意味します。