ウォール街から多額の支援
夫のビル・クリントン元大統領は、FRBのグリーンスパンとともに、ウォール街寄りの政策を実行していました。国民の預金を預かる銀行(商業銀行)と、株式投資をする証券会社の兼務を禁じていたグラス・スティーガル法を廃止したのは、クリントン政権です。
グラス・スティーガル法は、1929年から1933年の大恐慌のとき、「銀行と証券会社が恐慌の原因になった株価バブルを発生させた」として、1932年に制定されました。
廃止されたのは、ウォール街の意向を受けていたクリントン大統領時代の1999年です。1999年は、IT株バブルの時期でした。1996年に1000ポイントだったナスダックの株価は、1998年には1500、1999年には2000を超え、崩壊直前の2000年3月には5048(頂点)を記録していたのです。
当時、私が東京フォーラムで物流のロジスティクスソフトについて広告的な講演をしているときに、本家本元のIT株崩落のニュースが入り続けていたのでよく覚えています。
2001年の9.11後には、ITのベンチャーが多いナスダックの指数は、1000にまで下がりました。(注)現在のナスダックの株価指数は、5155です(16年9月13日)。2003年3月のバブル株価を超えています。
5大投資銀行の誕生
グラス・スティーガル法の廃止は、米国に5大投資銀行を誕生させました。代表は、1.モルガン・スタンレー、2.ゴールドマン・サックス、3.メリル・リンチ、4.ベア・スターンズ、5.リーマン・ブラザーズです。
(注)これに対し預金を預かる商業銀行は、大手ではシティバンク、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズファーゴ、ワコビアなどです
投資銀行は、債券を担保にする「レポ金融」で資金を調達し、それを、債券、株、そしてもっとも大きな残高であるデリバティブへの投機的投資に振り向けています。貸し付けではなく、借入金の投資で利益を出すビジネスモデルです。
(注)レポ金融:買い戻し条件つきで債券を売り(担保に差し入れるのと同じ)、公定歩合に近い低金利(ほぼ0%金利)で商業銀行から短期資金を調達する。その買った債券をまた担保にして資金を借りて債券を買うことを繰り返して、イールドの数倍の利ザヤを得る。10倍くらいのレバレッジにはなる
レポ金融では、借入にレバレッジがかかるので、0.25%の金利変動が、10倍の場合で2.5%の変化になります。「わずかな金利変動(FRBの利上げや利下げ)」が、債券、株、デリバティブの投機的投資の額を左右します。
バブルを生み出した投資銀行
サブプライム・ローン危機をもたらしたのも、住宅ローン担保証券(MBS)を作って買っていた投資銀行です。金融の利益から所得格差を助長したのも投資銀行でした。
元FRB議長のグリーンスパンは、「バブルは崩壊しなければ、バブルとは分からない」と言って、退任後には責任逃れの本を書いています。米国の住宅ローンバブルを作ったのは、レポ金融を知っていて利下げを行い続けたグリーンスパンでした。
レポ金融では、公定歩合で下がった金利で資金調達ができます。レポ金融で調達した短期資金で、金利の高いMBSが飛ぶように売れた。このため住宅ローン資金が大量供給されたのです。ローン資金の供給は、住宅購入を増やします。米国では、住宅購入の希望者は日本よりはるかに多い。
レポ金融が多い米国では、0.25%の利上げが投資銀行にとって2.5%の利上げになるため、投機的投資が減ります。
ほぼゼロ金利の資金を借りて、比較的に利回りの高い債券やデリバティブに投資する「キャリー・トレード」の解消も起こる。FRBの利上げが、わずか0.25%でも大きな問題になるのは、このためです。
ウォール街から選挙資金を得ているクリントン財団
妻のクリントン氏も、元大統領の夫同様、ウォ-ル街から選挙資金を得ています。寄付金を集めているのは、クリントン財団です。
2014年には、大統領選挙のためとして、10カ月で205億円を集めています。日本の政治資金団体にあたるものですが、スケールが違います。日本の自民党全体に匹敵します。米国の政治は、献金者のロビー活動で動く面が大きい。日本とは違った意味の金権政治です。
財務省が主導している日本の金融政策は「国債のため」ですが、米国の金融政策は「株価のため」です。このため、株価は、金融政策で大きく変動します。
金融緩和の持続を担うクリントン氏
クリントン氏は、バブル株価の維持のために、金融緩和を続けると見られています。FRBの金融政策は「独立している」と言いますが、それは実態ではない。大統領はFRB議長の任免権をもち、そのため金融政策を誘導できるのです。
イエレンFRB議長の罷免を主張するトランプ氏
一方、共和党のトランプ氏は、「イエレンFRB議長は極めて政治的であり、オバマ大統領が株価維持を望んでいるから低金利を続けている。恥を知るべきだ」とFRBを非難し、自分が大統領になればイエレン議長を罷免するとまで述べています。
「お金は実質的にタダで、今の市場はニセモノだ。新しい人が大統領になり、利上げをしたらどうなるか、株価がどうなるか見ているがいい」とし、「低金利は(預金の金利がゼロだから)預金者をもっとも苦しめる」と主張しています。
献金が得られないためか、反ウォール街の姿勢です。国民の反ウォール街感情に訴えるための発言でもあります。
ただトランプ氏は、扇動家の共通点として、論理的には支離滅裂なところがあります。別の場では「最良なのは金利が低いことだ。政府が(不足している)インフラ投資ができるから」とも言っているのです。