やるべき「財政拡大」をやっていないアベノミクス
しかし、この流れは、まだまだ確実なものではありません。世界経済がこれからどうなるか、まだまだ不透明ですし、なんと言っても、2014年の消費増税が、日本経済に巨大なブレーキをかけてしまっているからです。
このFT紙の主張の最大のポイントが、実はここにあります。この指摘は、このコラムの中でもとりわけ重要な意味を持つものですから、いくつか解説をはさみながら、その翻訳をそのまま掲載したいと思います。
成功へのすべての障害のうち、最悪だったのは「2014年の5%から8%への消費増税」という「自傷行為」であった。
本来、理論的にはアベノミクスは「財政政策」を含むものである筈だった。しかし実際には、この財政拡大は2013年における「短期間」でしか推進されなかった。それ以後の4年間は、日本政府は激しい「財政引き締め」を行ったのだ。これはもちろん、物価上昇の重大な障害となった。
(Of all the obstacles to success, the worst was self-inflicted: a 2014 rise in consumption tax from 5 to 8 per cent. In theory, Abenomics involved a fiscal stimulus. In reality, this only ever happened for a brief time, in 2013. Over the past four years, Japan has significantly tightened fiscal policy. The predictable result was to halt momentum towards higher prices.)
まさにおっしゃる通り。この指摘は、アベノミクスは本来「財政政策」を含むはずなのに、それをやったのは最初だけで、それ以後まとも進められていない、むしろ「緊縮」財政になってしまっている、つまり、アベノミクスの本来やるべきことを政府はやらなかったのだ――というご指摘です。おっしゃる通り、としか言いようがありません。
しかし、安倍内閣は今まさにこれから、変わろうとしている、とFT紙は論じます。
ところが今、安倍政権はこうした自らの間違いをハッキリと認識し、「財布の紐」を少し緩めた。
安倍政権は今後、「愚かで場当たり的な財政目標」を「無視」して、インフレになるまで(=デフレ完全脱却が果たせるまで)、この「財政拡大」を続けなければならない。
過去4年間、安倍政権の経済政策には「失敗」があった事は確かだ。しかし、その失敗は、「アベノミクスがやらねばならない事をやらなさすぎたから」もたらされたものなのだ。断じて「やり過ぎ」だったからではないのだ。
(Recently, the Abe government has realised its mistake and loosened the purse strings a little. It should continue to do so, ignoring foolish and arbitrary fiscal targets, until inflation finally does pick up. There have been policy failures over the past four years, but they all involved too little Abenomics, not too much.)
これもまた、おっしゃる通り!
ここで一番重要なのは、アベノミクスの成功にとって必須な「財政拡大」を図るために、
「愚かで場当たり的な財政目標」を「無視せよ!」
(ignoring foolish and arbitrary fiscal targets)
と主張している点。
言うまでも無く、「愚かで場当たり的な財政目標」とは、「2020年プライマリーバランス黒字化目標」のことです。
つまり、筆者がここ最近一貫して表明している、「正々堂々とPB目標を取り下げよ」という主張と同一の主張を、FT紙も、そのコラムの中で大々的に主張している、という次第です。
…ですが、これは何も不思議な話ではありません。そもそも、真実は一つ。「日本からみようが英国から見ようが、誰が見たって白は白、黒は黒」だからです。
アベノミクスが完全なる成功にたどり着けていないのは、すなわち、いまの日本が本格的に力強く成長できないのはプライマリーバランス目標という「愚かで場当たり的な財政目標」を政治的に保持し続けているからだ、というのは、客観的な状況分析ができる者が見れば、誰が見てもたどり着く、「当たり前の結論」なのです。
いち早く我が国政府においても、この「真実」に基づいた「政治的決定」が下されんことを、心から祈念したいと思います。
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『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017/5/9号より
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