記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年8月27日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
安倍政権の「ええっ!」と叫びたくなる外交的失点を検証する
2016/8/27号より
わたくしは昨年の7月5日、我が国の明治産業革命遺産について、ユネスコ登録が決定された際に、世界遺産委員会において韓国側がこだわった
- 「against their will」(本人の意思に反して)
- 「forced to work(働かされた)」
という表現を日本サイドが受け入れてしまったことについて、「大失態」と表現し、批判しました。
安倍政権は「ええっ!」と叫びたくなる外交的失点が少なくないですが、韓国との「慰安婦10億円合意」の件と同様に、上記のユネスコ登録はワーストスリーに入ると思います。
明治産業革命遺産のユネスコ登録時の「譲歩」は、三つの点でおかしいのです。
- そもそも「明治」産業革命遺産と、大東亜戦争期の徴用は時期的に無関係である。
- 大東亜戦争期に朝鮮半島の日本人(現在の韓国人の先祖)が徴用に応じたのは、国民の義務。しかも、実際には朝鮮半島の日本人はほとんど徴用されていない。
- 徴用を「強制連行」と主張する韓国側に対し、日本の外務省が「against their will」「forced to work」という表現を認めてしまった。それにも関わらず、外務省はforced labor(強制労働)とは異なる、と、意味不明な言い訳をした。
以下は「史実」です。
1910年8月29日:韓国併合。韓国併合条約がソウルで寺内正毅統監と大韓帝国の李完用首相により調印され、裁可公布により発効、大日本帝国は大韓帝国を併合し、その領土であった朝鮮半島を領有
1938年:国家総動員法成立
1939年7月:国民徴用令発令。国民の職業・年齢・性別を問わずに徴用が可能となる体制が構築される
1944年9月:朝鮮半島の日本国民(注:男性のみ)の徴用が始まる(1945年8月まで)
徴用に応じたほとんどは、日本本土の日本国民でした。朝鮮半島の日本国民は1944年9月から45年8月まで、わずか一年間、徴用されたに過ぎません。しかも、日本本土では女性も徴用に応じていました。それに対し、朝鮮半島の日本国民は、男性のみが徴用されました。
戦争が「善である」などと言いたいわけではありません。とはいえ、大東亜戦争という非常時に、法律に基づき、国家が国民に労働の提供を求めた。日本国民がそれに応じた。上記を現代の価値観で評価するのは、さすがに間違っているでしょう。いずれにせよ、徴用の主役は本土の日本国民であり、朝鮮半島に関係するのは大東亜戦争の最後の一年間だけでした。
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