運用者の立場になって実務を考えると分かること
ここで、いったん運用者の立場になって実務を考えてみよう。図は、JPX日経400株指数に連動するETFの板だ。運用者は野村投信だ。日銀はこのETFも量的緩和の購入対象としている。
8月16日は14時25分までの時点で、売買代金が30億6626万円だ。今なら1万1790円あれば買える。9660万7260円あれば、11790は全部買え、次の売り値は11800だ。この金額を日銀の1日当たりETF購入額707億円と比較して頂きたい。
このETFの価格は、この板に見る実際の売買だけで動く。一方、指数は個別400銘柄の実際の売買、他投信会社運用の同種ETFの売買、日経平均型ETFの売買、同先物、オプションの売買、TOPIX型ETFの売買、同先物、オプションの売買などなど、構成銘柄に関するすべての売買で多少なりとも動くことになる。
このETFが買われれば、400銘柄と連動させるために、市場で株式を買わねばならない。しかし、現実問題として、上記のような売買代金で、400銘柄の単位株が買えるだろうか?加えて、即座に希望の価格で買うことは望めない。そこで、ETFの運用とは、できるだけ少数で指数と連動し、尚且つ、指数を歪めない銘柄を選ぶ必要があることが分かる。
前掲記事が「投信協会のETFが個別銘柄をどれだけ保有しているか」を調べるのはそのためだ。これが各社が運用する各種ETFの中身に当たる個別銘柄と見なされるからだ。
しかし一方で、「年間6兆円のペースでETFを購入すればその比率がどう変化するかを予想」することは難しい。少なくとも、「日経平均の指数寄与度が大きいファーストリテイリングの浮動株比率は25%だが、野村證券の試算ではそのうち半分を日銀が保有し、年末までには63%まで上昇する見込みという」ように、現状の日銀保有比率がそのまま維持されることは考えにくい。
なぜなら、買い占めによる浮動株の減少や割高感から、この銘柄がこれまで通りに、指数を代表して連動することが難しくなるからだ。
上記の個々の銘柄における日銀の実質保有比率が正しいのか、また先行きの変化がどうなるかは分からないが、8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、75%で日銀が大株主上位10位以内というのは、その通りなのだろう。
「年間6兆円」の意味
ETFを通しての株主なので、「物言わぬ大株主」だ。相当期間にわたる保有なのだろうから、バブル期以前の「株式の持合い」構造に近いかも知れない。資金供給と合わせて、相当な株高要因だ。
では、年間6兆円という規模が大きいのか小さいのかは、過去の主体別売買動向を参照して頂きたい。
ちなみに、投資信託の残高には、日銀のETF購入が反映されているとは思えない。カストディ業務を行う信託銀行の保有として示されていると思われる。
※本記事は『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年8月16日号)の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
『相場はあなたの夢をかなえる ―有料版―』(2016年8月16日号)より一部抜粋
※太字・図版はMONEY VOICE編集部による
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