記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年8月16日号より
※本記事の本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
累進課税や所得再分配の役割は、社会の「平等性」実現だけではない
「日本経済再生」のためには、短期集中的にデフレギャップを埋める(金融政策にバックアップされた)財政政策が必要であると同時に、「民間企業業績改善 → 賃金アップ・民間投資拡大 → 内需拡大 → 民間企業業績アップ → ・・・」という「アベノミクスの好循環」を加速する「構造政策」を進めることが必要である――これが、筆者の主張です。
そして、この筆者の主張とおおむね重なり合う議論が、内閣府での経済財政諮問会議でも展開されている――以上が、先週の記事「『アベノミクスの好循環』を加速する『構造政策』を!」で紹介したお話でした。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/08/09/fujii-208/
では、今週は、具体的に「アベノミクスの好循環」を回すために、どのような対策が必要なのか――という点について、改めて紹介してみたいと思います。
そのためには様々な対策が必要なのですが、その内の一つが、
「格差是正・税制」
の考え方の導入です。
そもそも、(平均あるいは合計の)「国民所得」が同一でも、「格差」が存在すれば、それは、成長率を「低下」させる重要な要因となります。
なぜなら、格差の存在はすなわち、「ごく一部」の高所得者と「大量」の低所得者層の存在を意味します。そして、低所得者は消費も投資も旺盛ではありませんから、トータルとして、格差が存在する社会の方が(GDPが同一なら)消費も投資も抑制されるのです。したがって格差が大きければ成長率は鈍化します。
こうした背景から、あらゆる国家が所得税に「累進性」を設けています。
これはつまり、所得が高い人ほど多くの所得税を払う、という税制です。これによっていわゆる「所得の再分配」が行われ、格差が是正されるというわけです。
この「累進課税」「所得の再分配」はしばしば、人々は社会の「平等性」(equality)を求めるから導入する、と説明されますが、実はそれだけが理由ではないのです。所得税の累進課税には、国民経済を成長させる「経済政策」の意味も担っていた、という次第です。
ところで我が国にももちろん所得税に「累進性」が導入されているのですが、現実には、その正反対の
「逆進性」
が存在している――という問題をご存知でしょうか?