三連休最終日に、ソフトバンクがイギリスの半導体会社ARMを3.3兆円で買収するという驚きのニュースが入ってきました。日本企業による海外企業の買収金額としては過去最大となります。ソフトバンクはどこへ向かおうとしているのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
常識では理解不能の巨額買収劇、それでも孫社長は本気で勝ちにいく
ソフトバンクが買収するARM社とは?
半導体で有名な会社といえば、「インテル、入ってる」のインテルや、自動車向け半導体のルネサスなどがありますが、ARMのビジネスモデルはやや特殊です。なんと、自ら製造や販売を行っていないのです。それでは何をやっているかというと、ひたすら研究開発に特化しています。
ARMの業績はここ数年うなぎのぼりに上昇してきました。
好調の理由はスマートフォンの台頭です。ARMの半導体の特徴は消費電力が非常に小さいことで、これがスマートフォンのニーズと合致しました。消費電力が小さいことは、電源から離れて操作するモバイル機器にとってとても重要なことなのです。ARMの技術を使った半導体は、世界のスマートフォンの9割以上に搭載されていると言われています。
そんな企業がなぜあまり有名ではないのかと言うと、前述の通り自分で製造・販売を行っていないからです。研究開発をして特許を取り、メーカーがその技術を使って開発する際にはライセンス料、さらには販売数に応じてマージンが入ってくるというわけです。つまり、ARMの技術を使った製品が売れれば売れるだけ、自動的にもうかっていく仕組みです。
優良なビジネスモデルと高い成長性
量産のための工場を持っていないので、自ら巨額投資を行う必要はありません。投資の必要がなく、メーカーが勝手に作るだけ収入が入ってくるので、リスクを抑えて高い利益率を上げることができる、大変素晴らしいビジネスです。これは、以前本サイトで取り上げた素晴らしい会社の条件に当てはまっています。
成長性という観点でも注目すべきです。スマートフォンもまだまだ伸びていくでしょうが、今特に注目されているのがIoTです。IoTとはInternet of Thingsの略で、全てのものにインターネットが搭載されることです。電源から離れたモバイル端末や自動車にインターネットを搭載しようとすると、ARMの半導体技術が欠かせなくなります。IoTの進展に伴い、ARMの収益ますます拡大していくでしょう。
ARMの売上高は現在約1,800億円、純利益は約600億円で、これからどんどん拡大していくでしょう。PERは50倍を超えていますが、純利益が3~4倍になるのはわけない事だと考えられます。買収金額だけ見れば3.3兆円と巨額ですが、ソフトバンクは決して高い買い物をしたわけではないと考えます。
Next: 財務悪化懸念に反論、孫社長が描く常識外れの「未来図」とは?