生まれながらのあなたは、トレードに向いていない
投資やトレードの世界では、1つ1つの投資判断が直接的に損益に結びつくため、人は大きなプレッシャーにさらされます。また、相場環境が急変する中で、情報が十分ないのに瞬間的な判断を迫られることもあります。
こうした様々なプレッシャーの中で、人は太古の昔から慣れ親しんだファスト・システムによる判断に頼るようになります。これが、市場のゆがみを生み出していくわけです。
こうした中で、人間の誇るスロー・システムはファスト・システムが生み出す結論を後付けで正当化することに浪費されていくわけですが、スロー・システムの厄介なところは、本当はただ言い訳やつじつま合わせをしているだけなのに、「自分は合理的に考えながら判断をしている」という幻想を生み出してしまうところにあります。
つまり、相場の世界では、人は直感にしたがって、ときに合理的とは言えない判断を繰り返しながらも、往々にして自分ではそれに気づかないということです。
その結果、市場価格は歪み、しかしその歪みに人は気づかないという状況が生まれます。なにしろ、合理的で正しいと信じている自分自身がその歪みを生み出しているのですから。これでは、「市場の歪みを利用してやる」のは無理というものでしょう。
今述べてきたような人間の思考システムは、過去のヒトの進化の過程で明らかに役に立ってきたものです。ですが、相場の世界では、それが必ずしも適したものとはなりません。過去の進化の過程には、相場の世界で成功を収めることは自然淘汰の条件には含まれていなかったわけですからね。
むしろ、「人間(の思考システム)は、投資やトレードで利益を上げることを難しくする傾向を持つ」というべきだと思います。
これを克服して利益を上げるためには、ファスト・システムによる直感的な判断、すなわち本能的な判断を制御し、ときにこれに逆らう必要が出てきます。
「他人の非合理的判断を利用して利益を上げる」という今流行りの似非行動ファイナンス的投資理論は、それだけでは決して実際の役に立ちません。
まず、人の非合理的行動パターンが、どのように期待リターンの源泉を生み出すかを考えていくことが必要なのはもちろんですが、そのうえで、他人だけではなく自分自身も「本来は歪みを利用する側ではなく、歪みを生み出す側にいるのだ」ということを理解し、それをいかに克服していくかを考える必要があるのです。
次回からは、トレードをするうえで知っておくべき人間の心理的な反応パターンを具体的に見ていくことにしましょう。
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『田渕直也のトレードの科学 Vol.014』より抜粋