「非正規労働の増加」だけは百点満点
安倍総理の取り巻きが犯した5つ目の「罪」は、非正規労働の増加です。労働力の流動化が企業の利益になるとの建前から、派遣法の改正を含め、企業がコストの安い非正規労働にシフトしやすい形を整えました。人材派遣会社のトップがアドバイザーにもなっています。この結果、非正規雇用は2011年の1800万人から今年初めには2000万人を超えました。
国税庁の数字を見ると、非正規雇用の平均年収は169万円で、正規雇用の3分の1にすぎません。しかも社会保険料の会社負担がないことを考えると、所得格差はさらに大きくなります。
その非正規雇用が12年の35%から足元では約4割に高まりました。企業にはコストダウン効果となっても、個人から見ると結婚もできない所得水準で、これは少子化を促進します。
政府もこうした問題にうすうす気が付いたようで、必死に最低賃金の引き上げを進め、少額年金受給者への給付金などで「罪滅ぼし」を試みますが、とても穴は埋まりません。アベノミクスの成果が隅々まで及ぶようにもうひと頑張りしたいなどと言っていますが、アベノミクス自体に問題の種が潜んでいるだけに、この道を進むことは危険です。
日本経済の地位はますます低下
実際、アベノミクスを続けてきたために、日本経済の世界での地位がますます低下しているのが6つ目の「罪」です。1人当たりのGDP(国内総生産)は、野田政権の2012年に46,705ドルで世界の18位でしたが、昨年はこれが32,485ドルに低下し、世界第26位に後退しました。円安にしても輸出が増えず、国民の購買力を低下させるだけに終わったためです。
そして行き詰まったアベノミクスをなんとかごまかそうと、今密かに進めているのが「ヘリコプター・マネー」構想です。これは誰の負担もなしに、日銀がお金をばら撒くもので、一見空からお宝が降ってくる「夢物語」のように聞こえますが、これこそ日本の財政、金融秩序を崩壊させる「危険ドラッグ」で、そもそも白昼堂々と議論すべきものではありません。
最大の罪「ヘリコプター・マネー」は始まっている
そこで当局はヘリコプター・マネーを否定しますが、現実はすでにこれに限りなく近いことをやっています。実際、かつてロンドン・エコノミスト誌の編集長をしていたビル・エモット氏は、今の日本はすでにヘリコプター・マネーをしているのと変わらない、と言っています。つまり、実質的には日銀が国債を引き受けて、それで供されたお金を政府が給付金や介護士の手当てにあてるからです。
しかし「ただより怖いものはない」と言います。江戸時代に、藩政が行き詰まり、規律を無視して藩札を乱造してそのカネを使った藩では、悪性インフレが進んで庶民生活を圧迫した事例が報告されています。使うお金がなければ、勝手にお金を作ってしまえばよい、との発想で、これは本来の財政機能、金融機能を大きく逸脱しています。政府日銀は資産、付加価値の見合いなく貨幣を作り出すことはできません。
戦時下で政府は戦費を調達するために日銀に国債を引き受けさせ、それで調達した資金を武器弾薬の製造に使いました。結果、戦後に「モノの裏付けのないカネ」が大量に流通して、悪性の急激なインフレを引き起こしました。その結果、戦前から地道に積み上げた個人の貯蓄は「紙屑」となり、生活を破壊しました。
政府は参院選の後、大規模な財政支出を計画し、これを日銀の国債買い入れで賄う構えのようです。一部の総理アドバイザーはこれを当然と考え、「ヘリ・マネ」しかないと言い切ります。今は物価が上がらず、インフレの心配をする状況ではないと、これを正当化しますが、一旦秩序を破壊してしまうと、戦後のように物価の管理は困難に陥ります。これこそが7つ目の、そして最大の「罪」になります。