シャープが債務超過により、東証1部から東証2部に指定替えとなります。巨額の液晶製造設備への投資失敗が招いた末路と言えます。それでも、台湾企業の鴻海が手を差し伸べたことで破たんは免れました。東証2部への転落は終わりの始まりか、それとも復活の嚆矢となるのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
東証2部転落は終わりの始まりか、それとも復活の嚆矢か
東証1部には戻れない
東証には「指定替え基準」があり、債務超過になった時点で東証1部から東証2部へ指定替えとなります。シャープは2016年3月期に、巨額赤字の計上により債務超過に転落してしまいましたから、8月1日付で東証2部に指定替えとなる予定です。
東証2部に指定替えになったからといって、すぐに上場廃止の危険が迫っているわけではありません。上場廃止になってしまうのは2期連続債務超過になった場合であり、まだ1年間の猶予が残されています。
予定通りにことが進めば、今年の10月までに鴻海による約4,000億円の出資が完了するので、債務超過は解消され、当面の上場廃止の可能性はなくなります。
しかし、東証1部に戻るためには、「流通株式比率35%以上」という条件があります。流通株式とは、大株主等以外が保有する株式のことです。つまり、鴻海が66%以上の株式を保有している限り、シャープは東証1部に戻ってくることはできません(100%-66%=34%株主の利益は尊重されない
6月23日に定時株主総会が開かれ、そこで鴻海による出資が決定されます。
時価を大幅に下回る株価での出資となるため、株主総会の特別決議が必要です。特別決議には、議決権総数の2/3以上の賛成が必要ですが、鴻海の出資がなければシャープは破たんしてしまうので、おそらく可決されるでしょう。株主総会が終わり次第、正式に出資の手続きに入ることになります。
ここで気をつけたいのが、鴻海が出資する基準となる株価です。その金額は88円と、5月27日(金)の終値147円を大幅に下回っています。これは「有利発行」と呼ばれ、既存株主にとっては株式価値が目減りすることを意味します。
発行済株式の約2倍の株式をその価格で発行するので、加重平均すると約108円が現在のシャープの価値ということになります。
出資が完了すると、鴻海はシャープの議決権の2/3を保有することになります。そうなると、鴻海はどんな議案でも株主総会で可決できるので、シャープを完全に思いのままに操ることができます。したがって、シャープの今後は鴻海および会長のテリー・ゴウ(郭台銘)に委ねられるのです。
株式会社は良くも悪くも多数決ですから、鴻海以外の少数株主の利益が尊重されなくても文句は言えません。シャープの株主にとって相当不利な状況です。