27日に閉幕した伊勢志摩サミットでは、経済政策において実質的に何の合意も得られなかった。「リーマン・ショック級の危機」に陥りそうなのは日本だけであり、G7各国の共通認識にするのには無理がある。「白いものも黒だ」という詭弁は国内では通用しても、国際社会で通用する訳はない。(『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』近藤駿介)
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。
格調高い広島演説を行ったオバマ、政治最優先を露呈した安倍総理
伊勢志摩サミット閉幕、経済面の成果乏しく
「経済最優先」を掲げた安倍内閣の本質が、「政治最優先」であることを表した2日間だった。
27日に閉幕した伊勢志摩サミットでは、経済政策において実質的に何の合意も得られなかったうえに、一部で失笑を買うなど安倍総理は経済音痴ぶりを如何なく発揮した。
しかし、政治面では、17分にも及ぶオバマ大統領による格調高い演説という予定外の強力なアシストもあり、安倍総理は国内向け政治的アピールの場として最大限に有効利用して見せた。
オバマ首相と安倍総理、一致した利害
大統領就任直後2009年4月の「プラハ演説」で同年のノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領を、任期最終年に被爆地広島を訪問させるという政治的演出はなかなか考えたもの。
思うような政治的成果をあげられなかっただろうオバマ大統領にとって「記憶に残る大統領」になる機会を得られる今回の提案は貴重なものであり、それが格調高い「広島演説」を生んだ原動力になったともいえそうだ。
任期切れが迫るオバマ大統領と、「経済最優先」を掲げながら成果をあげられないにも関わらず長期政権を目論む安倍総理の思惑が一致したことが格調高い「広島演説」を生んだのだとしたら、まさに瓢箪から駒。
オバマ大統領の格調高い「広島演説」によって、経済的成果がなかった伊勢志摩サミットの記憶を消し去ることに成功した安倍総理は、「消費増税先送り」を表明する意向を固めたようだ。
どうしても必要だった「リーマン級危機」の共通認識
アベノミクスの成否に関らず長期政権を目論む安倍総理が、早晩「消費増税先送り」を表明するであろうことは、3月12日に開催された「投資戦略フェアEXPO2016」で行ったセミナーでも指摘して来た通り想定内のこと。
これまで「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならない限り予定通り引き上げていく」という発言を繰り返して来た安倍総理にとって重要なことは、「消費増税先送り」がアベノミクスの失敗によるものだという批判を封じ込めること。
そのために必要だったのは、世界経済が「リーマン・ショック級の危機」に陥りかねない状況にあるというG7の共通認識である。