いま世界経済で最大のリスクと言われているのが、中国経済です。昨年の株式市場は“チャイナ・ショック”に揺れた年でしたが、劇的な変化は起こりませんでした。しかし、それはリスクがなくなったことを意味するのではなく、さらなるひずみを蓄積しているだけにすぎません。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
中国不動産バブルのソフトランディングは困難、その影響は?
中国の成長率低下は必然
中国経済の最大の問題点は、GDPの約半分が総固定資本形成、すなわち不動産やインフラへなど投資で占められていることです。日本が約2割、アメリカが約15%、同じ新興国のインドですら約3割であることを考えると、半分というのは異常に高い数字です。
総固定資本形成の内訳は、「製造業投資」「不動産投資」「公共投資」で三分されます。昨年の”チャイナ・ショック”は、主に「製造業投資」に関係するものでした。中国の製造業関係指標の悪化に加え、人民元の切り下げを行ったことで、製造業市況の悪化を市場が懸念したのです。
中国の製造業が厳しくなっていくことは、経済理論からみても明らかです。これまで豊富な労働力と安い賃金を背景に「世界の工場」として台頭してきましたが、ここ数年は人件費の上昇に悩まされています。これを経済用語で「中進国のわな」と呼び、人件費の上昇によりこれまでのような競争力を保てなくなることを意味します。今の中国は明確にこの状態にはまりつつあります。
この問題に対しては、中国政府は目標成長率を下げることでソフトランディングを目指しています。これまで「7%以上」の成長を掲げて来ましたが、いまでは「6.5%以上」と徐々に引き下げています。目標成長率の引き下げと、足りない部分を公共投資でまかなうことでショックを和らげようとしているのです。
不動産は供給過剰のバブル
しかし、どうしてもソフトランディングが難しいのが「不動産投資」です。地方政府主導によるマンションの乱造と、不動産に投資する理財商品に代表されるシャドーバンキングの氾濫で、不動産バブルが発生しているのです。
中国マンションの空室率は異常に高いと言います。単に高いというだけではなく、そもそも消費者は購入したマンションを居住・賃貸のいずれにもせず、放っておいて転売によるもうけを期待しています。実需のない供給過剰を招いているのです。
※バブル膨らむ深センの不動産市場(The Wall Street Journal)
不動産価格そのものは異常に高い水準ではありませんが、それでも何らかの形で将来の価格上昇への期待が薄れた瞬間に、投資目的の人は一気に売りにかかるでしょう。売りが売りを呼び、不動産価格は下落します。新たな不動産投資は凍結されるため、GDP成長率も大幅に下落するでしょう。
Next: 中国の不動産バブル崩壊で起きること/リスクへの備え