有料メルマガを始めるきっかけは?
神保 メディアで働く私たちは、自分たちの作った番組を少しでも多くの方々に届けたいという気持ちは常にある。基本的にビデオニュースは動画サービスですが、動画以外の方法、つまり普段インターネットで動画を見る習慣のない方々にも私たちのコンテンツを届ける手段として、活字媒体も重視しています。
それぞれ動画には動画の、活字には活字のオーディエンスがいるわけです。もちろんその両方を利用する人もいるでしょうが、メルマガを発行することで、これまでインターネット放送というものを利用する習慣のなかった人々にもビデオニュースの存在を知ってもらいたいということが、まず、ビデオニュースとして、まぐまぐにもメルマガを配信することに決定した理由です。
一番伝えていきたいことは?
宮台 世論形成のメカニズムが以前と変わってるんですね。ポール・ラザーズフェルドと いう人が、「コミュニケーションの2段の流れ」って言うのを提唱していて、 これは1950年頃の活字ですけれど、新聞に触れた人が等しく新聞の、 テレビに触れた人が等しくテレビの影響を受けるわけではなくて、 オピニオンリーダー層が、まずそれを受け止め解釈をして、 そのオピニオンリーダー層が所属している小集団のフォロワー、その他の人たちに 解釈したメッセージを伝えるという流れがあるんですね。
こういう小集団って例えば、いわゆる床屋に集まる客だったり、井戸端に集まる 奥さんたちっていうイメージなんだけど、日本はとりわけ、そういう小集団を 支えるバック・グラウンド、共同体が空洞化しちゃったんで、ダイレクトに マスコミが、個人をヒットしがちになっていたわけですけれども、そこに インターネットが入ってきて、それにブログやツイッターも出てくる。
そうなると基本的にインターネットのアクティブユーザーが、オピニオンリーダー 役をして、そのマスコミの情報を解釈していくだろうと。さらに言えば、その オピニオンリーダー層っていうのは、ネットアクティブ層であろうと。
この層にオピニオンリーダーとしての適切な役割を果たしてもらうために 必要な情報を伝えること。
不勉強なマスコミの記者等が当然、言及できないような事実であれ、 概念的なものであれ、それをお伝えしていく。
まあ、最初はある種の「目からウロコ」体験をしていただくということですね。
今、注目している話題は?
宮台 僕、いつも注目している話題って言うのは基本的に無くて。
強いて言えば、僕に人間関係上、あるいは仕事上、時代時代、あるいは時期ごとに
ある仕事が多くなるっていうことはあります。そうしたら、そうしたことには
関心を持つという程度ですね。
神保 僕自身は、記者として長年取り組んでいるテーマが幾つかあります。
地球環境の問題や先進国と発展途上国の南北格差や貧困問題などは、これまでもそしてこれからもライフワークとして取り組んでいきたいと思っています。
もともと、そのような人類にとって重要な問題を扱うメディアがなくなっていることに危機感を覚え、地道にそういう場を作っていかなければならないのではないかと考えたのが、ビデオニュースというインターネット放送局を立ち上げた理由でした。100年かかってもいいので、公共性の高い人類にとって重要なテーマを普通に報じられるようなメディアに育てていこうと考えています。
メルマガの今後は?
神保 今のメディアは大きな転換期にあります。
新しいメディアの時代への移行が少しずつ始まっていますが、まだ古いメディアがなんだかんだ言いながら、こまで握ってきた既得権益にしがみついている状態で、そのおかげで、古いメディアがまだ一定の影響力を持っています。そのため、新しいメディアが、なかなか育って来れない状況が続きましたが、今その状況も最後のフェーズ差し掛かっているようです。メデイアが次のフェーズに入った時のメディアの担い手がどういうものになるのかを常に考えて行動していなければならない状況にあると思います。
メルマガはインターネットの黎明期にこそ斬新なモデルだったかもしれませんが、今はただ単にメルマガを配信するやり方はやや陳腐化しているかもしれません。例えばツイッターと組み合わせるなどいろいろな工夫が必要だとは思いますが、お金を出してでも購入するだけの価値のある商品を作り、それを売り出すことで、そういうマーケット、つまり有料で高付加価値の商品の市場を作っていくことはとても大事なことです。
その意味では、メルマガとビデオニュースの組み合わせは、相乗効果、つまりメルマガを通じてビデオニュースの存在を知る人がいる一方で、ビデオニュースを通じてメルマガの存在を知る人もいるという意味で、非常に効果的であり、意味があります。
メルマガを読む方々は、それが十分に価値があるとことを見極めた上で、ちょっと言い方は変ですが、しっかりお金を払っていただきたいと思いますね。
神保哲生さん・宮台真司さんプロフィール
神保 哲生(じんぼう てつお)
ビデオニュース・ドットコム代表/ビデオジャーナリスト
1961年東京生まれ
コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者などを経て99年11月、インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』、『ツバル-温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は環境問題、国際政治、メディア倫理。
宮台 真司(みやだい しんじ)
首都大学東京教授/社会学者
1959年仙台生まれ
東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)著書に『民主主義が一度もなかった国・日本』、『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『制服少女たちの選択』など。