メルマガでは「飲み食いの話」を綴ってくださるとのことなのですが、お酒は毎日飲まれているんですか?
飲まれてます(笑) 一応週に一度、休肝日はあるんですけど。あと、年に一ヶ月、毎年9月は飲まないんです。体を一回デフォルトに戻しておこう、っていうことで。
何で9月かっていうと、10月1日が「日本酒の日」で、その年の新酒が出るんですよ。なので、その前の週くらいに健康診断を受けて数値を見て、心理的に安心してまた1年飲むという(笑)
では、毎年8月31日に飲み納めをして、9月1日からはもう一滴も飲まない、というサイクルなんですか?
昔はそうだったんですけど、だんだん甘くなってきて(笑)現在は外飲みはいいっていうルールになってます(笑) あまりスケジュールは入れないようにしてはいるんですけど、誘われたらじゃぁ仕方ないかっていう。
昔は落語なんか聞きに行った帰りに誘われても、「いや、今月は」って断ってたんですけど、それもどうかと思うようになって、じゃあそういう場合はいい、ってことにしたんです。
あとはね、1985年に阪神が優勝したんですけど、それが9月だったんです。で、「飲まないのはちょっとね」って飲んじゃってその2週間後に検査を受けたんですけど、ぜんぜん問題なかった。「なんだ、2週間ぐらいあければいいのか」って思って、それからズルズルになってます(笑)
でも基本的に9月はなるべく飲まない。新たに一年飲むために備える一ヶ月ですね。みんなには「飲んでる時に測んなきゃダメじゃん」って言われるんですけど、飲んでて数値が悪くなるのは当たり前じゃないですか。飲んでない時に悪いほうがやばい、そういう思想の元に(笑)
だいたい、9月って食べ物的に一年を通して一番退屈な月なんですよ。夏の食べ物にも飽きてきてるし、秋の食べ物にはまだ早いし、まだ変に暑いし。そんなこともあって「9月ならお酒抜いてもそんなに悔しくないよね」っていう(笑) 10月になると秋刀魚が出るの茸が出るのってなるじゃないですか。そうすると辛いから、ってことで9月に設定しました。
よく飲むお酒はやはり日本酒ですか?
日本酒が一番多いですよね。あんまり続くと飽きるから、焼酎やワインにしてバランス取ったりしますけど、基本は日本酒。日本酒が一番コストパフォーマンスがいいので(笑)
今まで一番美味しかったお酒ってなんですか?
スペインのヘレスっていう街の蔵元で飲んだシェリーが一番美味しかったですね、樽出しのシェリー。アンダルシア地方をシェリーの専門家の人たちと一緒に旅行した時に、「ペドロ・ドメック」っていう蔵で飲んだんですけど、まだあるのかな、あの蔵。
シェリーって、樽の中では液面がフロールっていう酵母の層でふたをされてるみたいになっていて、テイスティングするためにシェリーを取り出して注ぐベネンシアっていう道具、あれは樽から酵母を必要以上に壊さないで液体だけを取り出せるように、細長い独特の形をしてるんです。
その時に飲んだのは、酵母がいっぱい入っているもので、あれはもう、バラの花のかたまりを飲んでいるようで。ドライシェリーだから甘くはないんですけど、本当に香りがすごくよかった。
あとは、フランスのコニャック地方のブランデー蒸留所で飲んだピノー。ブランデーって蒸留するじゃないですか。ものすごく乱暴に言うとワインにそのコニャックを入れて作ったのがピノーだそうで、軽やかなのに華やかで美味しいんですよ。今はどうかわからないですけど、当時は現地じゃないと飲めなかった。
……なんて、過去の栄光で生きてます。この記憶だけで二合は飲めるっていう(笑)
お酒の席にはいろいろな人がいると思うのですが、モリモトさんが許せないタイプの酒飲みはどんな人ですか?
威張る人。お酒飲んでなくてもそうなんですけど、威張ってる人ってホント嫌いで。
あと、説教する人。なんかわからないんですけど、説教されやすいみたいです。けっこうムカつくんだよね、アレ。でもまあ、自分も酔っ払いだから、わりと寛大ですよ。ときどき怒るらしいけど(笑)
基本的に眠くなるタイプなので、ボーっとしてるって思ってたら、よく喋るらしいです。自分のことを「らしい」っていうのも変だけど覚えてないもん(笑)
お酒でストレス解消なさったりは?
お酒って、落ち込んでる時に飲むとあんまりいいことないですよね。二日酔いになるんですよ、経験則から言うと(笑) だから、「あ、今日はあんまり飲むとまずいな」と思うんですけど、でも飲んじゃう。で、二日酔いになるんです(笑)
ストレス解消法としては、眠ることとジムで汗を流すことですかね。1時間くらい走って、30分バイクを漕いで、マシンを少し……っていうおおむね2時間コースなんですけど、汗を流すとリセットするっていうか、「まだ行けるかな」っていう気分になるんですよね。
メルマガを読んでいますと、お料理もストレス解消の一つのようにも感じるんですが、レパートリーはどれくらいあるのですか?
数ですか? 数えたことないですね。というか、その都度思いついたもの、食べたいものを作っているだけなので、カウントしたことないんですよね。料理って毎日のことだから基本は肉野菜炒めと焼き魚とお新香くらいなんですけど、それに何かつまみっぽいものを入れるって時に、「なんかないかな」ってスーパーの売り場を見ながら考えるっていうタイプです。
そうなんですね。メルマガでは毎回レシピも公開してくださるとのことなんですが、モリモトさんはどういう理由でお料理を始めたのですか?
そりゃおいしくお酒が飲みたいからですよね(笑) 美味しく飲みたいっていう一心です。下手なお店に入って「失敗したな」って思うよりも、自分で作っちゃったほうが早いし、安いし。居酒屋なんかで、「これ、この値段で出すってどうなのよ?」っていうこと、結構ありますしね(笑)
でも、居酒屋で学習することもたくさんあるんですよ。味付けだったり調理法だったり、ちょっとしたことなんですけど。この間もレバニラ炒めを作るのに、レバーをお醤油に漬けてから粉はたいてカラッと揚げたものを使うとべちょべちょにならないっていうのを知って、実際にやってみたらすごく美味しかったんですよ。
お店の方に作り方を聞いたりもするんですか?
聞きます聞きます。なんだか怖そうな店やチェーン店だと聞かないですけど、教えてくれそうな雰囲気があったら「どうやって作るの?」って。それがきっかけで馴染みになった居酒屋もあるくらいです(笑)
自信作はなんでしょうか?
煮物と炒め物ですかね。…とくに「これ」ってものはないですね。ホントにその時思いついたものしか作ってないからなー。中華鍋イッチョあればけっこうな種類、作れますからね。
魚系の料理がお得意という話もありますが。
いやべつに特に魚が、ってことはないです。魚、さばくの苦手だしね(笑)、ともすると肉系に走るので、ちょっと魚も入れないとっていう意識があるからレパートリーには入れますけどね(笑)
先ほどはお酒のことをお聞きしましたが、今度は、今までで一番美味しかった料理を教えてください。
30年くらい前に中国で食べた水餃子かな。28歳の時にひと月間、中国を貧乏旅行したことがあって、西安っていう街の中心部からちょっと離れた古ぼけた水餃子屋さんで食べたのがすごく美味しくて。なんて言うのかな、肉も皮もとろけるような感じでね。バランスって言うのかな、それがとてもおいしかった。そこで初めて中国では「ほとんど焼餃子を食べない」って知ったんです。
外苑前にある「福蘭」っていうお店の水餃子がそこにけっこう近いんですよね。脂っこいんですけど、もたれなくていくらでも食べられるってところも。
あとは高知で食べた「鯨のサエズリ(舌)」、青森の「フジツボ」に静岡の漁港で買った「鰯のミリン干し」に……って、そういう話をしてたらおなかすいてきちゃった(笑)
そんなモリモトさんがメルマガを出そうと思ったきっかけを教えてください。
Webコラムはやってるんですけど、音楽やお芝居のライブがネタなので、観てきた落語とか浪曲、ステージに舞台に映画、そういうものと料理を絡めて書いているんです。プライベートといえばプライベートなのかもしれないけど、なんていうか、パブリックに報告しているみたいな感じがあるんです。そうじゃなくて、もう少しエッセイっぽいことを書きたいなっていう気持ちがずっとあったんですね。ちゃんと読み物として完結していて、さらに読んだ人が何か情報を得られるようなものを書きたいって、ずっと思ってたんです。それがメルマガを始めるきっかけかな。
では、メルマガではどんなことを伝えたいと思っていますか?
食べる・飲むってのは誰でもすることだけど、そんなに高いお金をかけなくても充分生活を楽しめるっていうことを伝えたいですね。「ああ、そういうふうにすればいいんだ」っていうふうに思ってもらえれば……。
それと、いま情報量が氾濫していて音楽でも舞台でも食べ物でも、自分にとって必要なものがどれか、すごくわかりにくくなってて、ともすると情報の海でおぼれちゃう。
だから僕も自分に必要な情報がどこにあるか、いつもアンテナを張ってキャッチするようにしてるんです。あるいは情報の取捨選択をできるようなアンテナの張り方をしてる、と言ってもいいかもしれない。
だから僕のメルマガを読んでくれた人達が、ここから「あ、これ面白そう♪」とか、「おいしそう♪」っていう風にここからピックアップ、キャッチしてくれたらすごく嬉しい。そう思ってもらえるように書いていきたいかな。
あとは、今、けっこうみんなしんどい状況だと思うんだけど、「もう少しスタンスを緩くしとくと楽になるよ」っていうプレゼンテーションができればいいな。難しいですけど。
疲れてる人や余裕がない人に読んでもらって、「ああ、こんなバカもいるんだ」って安心してくれればとも思います。不遜ですかね(笑)
では、最後に読者にメッセージをお願いします。
気楽に行きましょう、あんまりキチキチ考えてるとろくなことにならないし。って、自分に言ってるか俺(笑)
あとは、料理をするのって加減乗除って言うんですかね、科学の実験みたいな部分があって、すごく楽しいんですよ。あんまり、「何を何グラム」とか「何を何ミリリットル」とかってやっていくとけっこう辛くなってくるので、自分の感覚で、「適宜」っていうほうが絶対にいいんですよ。自分の好みに合わせて作ればその分、お店で食べるよりたぶん美味しくなります。是非いっしょにおいしく遊びましょう。
モリモト・パンジャさんプロフィール
東京生まれのイラストレーター。慶應義塾大学経済学部卒業後フリー。出版・広告関係を中心にイラストレーション、デザイン、コラムなど。おいしいものとお酒と音楽と落語と本と女の子と阪神タイガースと人間観察と芝居と仕事と車が好き(好きなもん順)。日本図書設計家協会会員。
WEBマガジンで「ハイこちら酔っぱライ部」連載中。
http://www.asobist.com/entame/drinker/index.php