有料メルマガを始めた理由を教えてください
現在、僕の仕事は、書籍原稿の執筆、講演が中心になっています。かつてはそれに加えて10誌ほどの雑誌の原稿執筆があったのですが、その雑誌が今や壊滅状態で。僕が連載していた「論壇誌」といわれるものが相次いで休刊になってしまったんです。
そういうわけで、今は基本的には書籍執筆と講演活動が仕事の核になっているのですが、それらは一般向けというか、幅広い層に向けて書いたり話したりしているんですね。しかし一方で、「もう少しコアな話を聞きたい」というニーズがかなりあるんです。
僕はもう何年も前から、メディアというものは、マスメディアとミドルメディアの両方に向かっていくと考えていました。
マスメディアとは、テレビや新聞など、数百万人から数千万人に発信される情報。たとえば、民主党が次の参院選で何をするかとか、政権交代で何が変わったかなど、みんなが共有しなければいけない情報を伝えるメディアです。
一方のミドルメディアというのは、特定の企業や業界、特定の分野、特定の趣味の人たちなど、数千人から数十万人の規模の特定層に向けて発信される情報。一定の影響力を保っているブログや、メルマガなどがこれに当てはまるのですが、今、このミドルメディアが爆発的に拡大してきています。
そんな状況の中にあって、僕に求められている「ウェブやITのコアな話」というのはかなりマニアックでして、ターゲット層としては数千人しかいないのではないかと思っています。過去に2~3冊、そういう書籍を出してみたところ、見事に売れなかった(笑)。ということは、これはマスメディア向けの情報ではないということなんですね。
だったら、コアなウェブ業界の人、もしくはそういう情報を求めている人向けの記事は、メールマガジンのようなミドルメディアに属する媒体で発信したほうがダイレクトでいいかなと思ったのが、有料メルマガを始めたきっかけです。
メールマガジンのほかにも、ブログ、twitterで情報を発信されていますが、その中でメルマガの位置付けは?
僕は、ネットで情報を発信するに当たっては、ブログ、twitter、メールマガジンを三本柱と考えています。
ブログには基本的に、社会性のある批評、反論、議論のベースとなるものを書いています。最近では、ソフトバンク社長の孫正義さんの「光の道」構想への反論を書いたり、出版業界が電子書籍にしり込みしているのはけしからん、ということを書きました。まあこういうことを書くからディスられるんですけどね(笑)。
一方でtwitterは、キュレーション活動の場、つまり日々自分が収集しているウェブの情報の中から、多くの人が読んだほうがいいなと思うものを紹介して流すという場にしています。
ではメールマガジンはというと、ブログやtwitterとはまた違う場、つまり、まとまった量の専門的な情報を専門的な人たちに流す、という場なんです。
twitterでやっていることとメールマガジンでやっていることは重なる部分もあるんですが、前者は情報の紹介の場であり、後者は自分の論考や分析をまとまった形で書く場、ということになりますね。
お仕事ぶりを見ていると、寝ないで仕事しているのでは、と思ってしまうのですが。
日々の生活は修行僧のようです(笑)。ちょうど今日も日中は断食中なので、お腹が空いてます(笑)。
朝は6時までには起きて、メールとgoogleリーダーのチェックをします。その後、時間があれば読んだ記事をブックマークしてtwitterに流しています。それからジムに行って、走って筋トレしてストレッチして風呂に入って。
1999年まで新聞記者をしていて、夜中の1時から焼肉を食べに行くなんていうめちゃくちゃ不摂生な生活をしてたんですが、そういうのが嫌だなあとずっと思ってはいたんです。
記者を辞めたのを期に、健康的な生活に切り替えようと、2000年ぐらいから規則正しい生活をしているんですが、それが嵩じて今では断食道場に年に2回は行くようになりました。
普段も家では肉魚は一切食べず、五分づきのお米と、自分で作った旬の野菜中心の食事をとっています。健康維持の基本になるのではないかと思い、旬のものしか食べません。お酒は少量飲みますが、タバコは吸いませんね。
ちなみに、電話には出ません。そもそも出られる時間がほとんどないんです。原稿を書いているときは中断したくないので出ないですし、そうでないときはこうして人と会っているか移動しているかなのでやっぱり出られない。電話に出られる時間は1日のうちで30分くらいしかないですかね。だから基本的にはメールでやり取りしています。
夜は、早いときは9時半、遅くとも12時には寝ますね。
本当に修行僧みたいな生活なので、もう袈裟でも着ようかと思います(笑)。
でも、こういう生活も、仕事が詰んでくると大変なんですけどね。この春は論争しすぎて大変でした(笑)。とくに5月の孫さんとの「光の道」の対談、あれは結構こたえました。あのあと2週間ぐらいは疲れて動けなかったですね(笑)。もうそれでしばらく論争をやめようと。今は取材もほとんどお断りして、粛々と自宅で地味に原稿を書く生活です。
お仕事をしていく上で心がけていることなどありましたら教えてください。
自分自身のセルフブランディングに通じるセルフプロモーションをきちんとしていくことを心がけています。
先ほどもお話したとおり、今僕はテレビや新聞からの短いコメントだけの取材についてはほとんどお断りしています。というのも、昔のようにテレビや新聞で名前を出してプロモーションする意味がほとんどなくなってきているように思うからなんです。
もちろん、まとまった時間をいただけるのなら別ですが、1分程度の短いコメントなんていうものは何の意味もないことがわかってきた。twitterでもフォロワー数が5万何千人もいて、そこで十分セルフプロモーションができているので、それ以上メディアを使う必要はないかなと感じるんです。
twitterやメルマガを通してのつながりのほうが、こちらの意図するものが生々しく伝わるし、僕自身を身近に感じてもらえるのではないかと思います。
それこそ孫さんとの「光の道」対談も、出演依頼があったのではなくて、単にtwitter上でやりましょう、となった話なので、ギャランティなんかもゼロですからね。駐車場代まで自分で払っているんです。5000円もしたんです(笑)。
ただ、あれもプロモーションになっていると思うんです。そういう活動が今、大事なんじゃないかと思いますね。
このメルマガの“売り”を教えていただけますか
IT業界の最新動向について、きちんと僕なりの視点で分析しているものは、このメルマガ以外には他では読めないと思います。
何ヶ月も経ってからまとまった形で書籍にしたり、別の雑誌の原稿にしたりということはありますが、ほぼ今起きていることをリアルタイムできちんと分析しているものは他では読めないと思いますし、少なくとも今ネット上で流通している日本語のIT関連の記事のその他もろもろより、ずっと深い論考分析がなされている、という自負はあります。
それから、書籍を書くとき、その最初の構想みたいなものをメールマガジンのコンテンツにしているケースもあるので、僕の書籍を読むよりもかなり早い段階で、その書籍についての内容をご覧いただけるというメリットもあるかと思います。
最後に、読者の方にメッセージをお願いします
僕はこれから先の時代は、マスメディアも大企業もない世界になっていくんじゃないかとイメージしています。そういう状況では当然ながら個人のビジネスもスモール化していくでしょう。
そこで大事になってくるのは、おのおのがいかにセルフブランディングをきちんとし、なおかつ身体を鍛え、小さなビジネスを維持していくスキルを構築していくことではないでしょうか。つまりは、自分自身の人生に自分自身で責任を負うような世の中になっていくんじゃないかと思うんです。
僕も含め、そういう方向に向かっていくべき皆さんに、がんばりましょうということをお伝えしたいですね。
佐々木俊尚さんプロフィール
1961年兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。
1988年毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。
1999年アスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。
2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。