辺真一のマル秘レポート

第２次朝鮮戦争勃発に向けて時計の針が動いた！（１）

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　　　　　　　　　　　 2022.05.25　Vol.298
　　　　　　　　 ［毎月5,15,25日発行＋号外あり］
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　「歴史は繰り返される」と言われるが、休火山の朝鮮半島でも再び戦火の兆しが現れ始めた。地殻変動の原因は不倶戴天の関係にある米朝の解消し難い相互不信と、南北当局の根深い対立にある。何よりも、北朝鮮が核とミサイル開発を再開させたこと、米国が一貫として圧力と制裁を緩めないこと、そして韓国の政権が北朝鮮に融和的な文在寅（ムン・ジェイン）政権から強硬な尹錫悦（ユン・ソクヨル）政権に替わったことなどが上げられる。

　米朝首脳会談の決裂により北朝鮮の独裁者・金正恩（キム・ジョンウン）総書記はトランプ政権からバイデン政権に替わった年の２０２１年１月に開催した党大会で「核兵器と大陸間弾道ミサイル（ＩＣＢＭ）発射中断など非核化措置を継続する理由がなくなった」と述べ、ＩＣＢＭの発射や核実験中止のモラトリアムを撤回し、核・ミサイル開発に回帰してしまった。

　党大会では「国防科学発展及び兵器システム開発５か年計画」が示され、北朝鮮は５年の間に▲核兵器の小型化と軽量化と戦術武器化の推進▲中大型核弾頭の生産▲１万５千ｋｍ射程圏内の打撃命中率向上▲極超音速滑空先頭部開発導入▲水中・地上固体エンジン大陸間弾道ミサイルの開発▲原子力潜水艦とＳＬＢＭ戦略兵器の保有▲軍事偵察衛星の運用▲多弾頭ミサイルの開発を行うことを宣言した。

　金正恩政権は計画１年目で米露中の３か国が競っている極超音速滑空ミサイル開発に着手し、早くも手にしたが、２０２５年までに全ての計画を達成する構えだ。どれもこれも米国の安全保障を著しく脅かすもので米国にとっては越えさせてはならないレッドラインとなっている。

　バイデン大統領と尹錫悦大統領は５月２１日に行われた首脳会談で北朝鮮の脅威、挑発には大規模合同軍事演習の再開や原子力空母、戦略爆撃機などによる抑止力の拡大、強化で対応し、北朝鮮にレッドラインを越えないよう警告していたが、北朝鮮はこれまでそうした警告をことごくと無視し、何度もレッドラインを越えてきた。

　米国はクリントン政権下の１９９３年には核査察の拒否を、ブッシュ政権下の２００４年と２００６年には使用済核燃料棒の再処理と核実験を、オバマ政権下の２００９年と２０１３年には長距離弾道ミサイル「テポドン」（人工衛星）の発射と３度目の核実験を、そしてトランプ政権時下の２０１７年にはＩＣＢＭ「火星１５型」をレッドラインに定めたが、北朝鮮は全く意に介さず、飛び越えてしまった。

　オバマ政権時代の２０１２年４月には米太平洋軍のロックリア司令官（当時）が「北朝鮮が３度目の核実験を試みた場合、基地に対して局地攻撃を加える可能性もあ
る」と北朝鮮を威嚇し、ドニロン大統領補佐官（当時）もまた、２０１３年３月に「米国を攻撃目標にできるような核ミサイルを開発しようとするのを傍観しない」と武力行使を示唆し、トランプ前大統領も２０１７年１１月に訪韓した時の演説で「我々は米国の都市が破壊の脅しを受けるのを許さない」と、北朝鮮がＩＣＢＭを発射すれば、「大きな紛争になる可能性がある」と牽制して見せたが、核実験はすでに６回も行われている。ＩＣＢＭも「火星１５型」に続いて多弾頭ミサイルとおぼしき大型の「火星１７型」がバイデン政権下になって試射されている。

　金総書記は２０２１年１０月に開催された国防発展展覧会での演説で「誰も手出しできない無敵の軍事力を保有し、強化するのは我が党の揺るぎない最重大政策であり，意志であ
る」と述べ、「後世のためにも我々はまず強くなければならない」と発言し、今年４月２５日に行われた朝鮮人民革命軍創建９０周年軍事パレードでも「力と力が熾烈に激突する現世では国家の尊厳も国権も真の平和も敵を圧倒する自衛力によって担保される。我々は引き続き強くならなければならない」と演説し、「我が国家が保有する核武力を猛スピードで一層強化するための措置を取る」と強調していた。

　対話に応じない世界屈指の「反米国家」の核・ミサイル開発を放置し、核大国への道に猛進させることは米国にとって悪夢であることは言うまでもない。そのため米国の歴代政権は北朝鮮を非核化させるため対話と圧力・制裁を交互に駆使してきたが、結果はいずれも失敗に終わっている。

　対話も制裁・圧力も決め手にならないとなると、残された選択は北朝鮮の核を容認するか、あるいは外科手術で除去するか、２択しか残されていない。北朝鮮の核との共存が不可ならば、有効な手段は後者しかないのは自明である。

　実際にクリントン政権からトランプ政権にいたるまで歴代政権は何度も軍事力行使による阻止を検討し、「５０２７作戦」や「５０１５作戦」などそのためのプランも練ってきた。

　クリントン大統領は北朝鮮との核交渉が決裂した１９９４年６月、ホワイトハウスでの安全保障会議の場でペリー国防長官（当時）から「いつかは米国に向け発射されるかもしれない核を北朝鮮が持つことを放置するか、戦争のリスクを冒してでも、北朝鮮の核保有を阻止するか、どちらか一方を選択するほかない」と提言され、後者を選んだ。実際にシュリガシュビリ統合参謀本部議長（当時）、ラック駐韓米軍司令官（当時）などから戦争シミュレーションのブリーフィングまで受けていた。

　後任のブッシュ大統領も２００３年２月、米陸軍士官学校の卒業式で「我々は自由と生命を守るため先制措置（先制攻撃）を取るなど積極的で断固とした態勢を備える」と、「悪の枢軸国」扱いした北朝鮮を牽制し、翌年の２月には訪米した中国の江沢民国家主席（当時）に対し「（北朝鮮の核問題が）外交的に解決できなければ、北朝鮮への軍事攻撃を検討せざるを得ない」と密かに通告していた。このことは退任後の２０１０年１１月に発売されたブッシュ大統領の回顧録「決断の瞬間」の中でも明らかにされている。

　オバマ政権も北朝鮮が人工衛星と称して２００９年、１２年、１６年にテポドン・ミサイルを発射した際、その都度「迎撃する」と威嚇してみせた。実際に北朝鮮が２００９年４月にテポドン２号を発射した際にはゲーツ国防長官（当時）が「迎撃も辞さない」と公然と言明していた。米国務省がロシア駐在の米大使館に送った秘密公電によると、オバマ政権は迎撃の意思をロシア政府に事前通告していた。

　オバマ大統領自身も２０１４年４月２６日に訪韓した際に米韓連合軍司令部のあるソウルの竜山（ヨンサン）基地での演説で４回目の核実験をちらつかせていた北朝鮮に対して「同盟国防衛には軍事力行使もためらわない」と直接釘を刺していた。

　直近のトランプ政権下の２０１７年には戦争一歩手前の状況に陥ったのは誰もが認めるところである。

　米国には北朝鮮に対しては軍事力の行使というオプションがあることは２０１７年のトランプ大統領の発言を知れば、そのことを窺い知ることができる。

　▲「北朝鮮がＩＣＢＭで米国攻撃を目指すなら戦争になるだろう」（８月１日）
　▲「北朝鮮が米国を脅かすならば今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」（８月８日）
　▲「グアムであれ、どこであれ、米国の領土であれ、同盟国であれ、何かすれば、金正恩は本当に後悔するだろう」（８月１１日）
　▲「軍事オプションは望ましくないが、使えば、北朝鮮にとっては悲しい日になるであろう」（９月８日）
　▲「軍事オプションは優先的ではないが、やる時はやる。北朝鮮にとっては破壊的になるだろう」（９月２７日）
　▲「（我々は）完全に準備できている。知れば衝撃受けるであろう」（１０月２３日）

　トランプ政権下ではティラーソン国務長官（当時）もＣＢＳとのインタビューで「我々の外交努力が失敗すれば、残るのはたった一つ、軍事オプションだけだ」（９月１７日）と語り、マクマスター大統領安全保障担当補佐官（当時）も「北朝鮮との戦争の可能性が日々高まっている」（１２月３日）と戦争の可能性を口にしていた。ニッキー・ヘイリー国連大使（当時）も「北朝鮮がこれ以上米国を挑発するならば、米国として防御するためにやらなければならないときはやる」（８月６日）と断言していた。

　実際に米国はこれまで平壌を制圧する「５０１５作戦計画」に則り、北朝鮮の大量殺傷破壊兵器（ＷＭＤ）の破壊と金総書記ら首脳部を除去する「斬首訓練」を秘密裏に行ってきた。

　マティス国防長官（当時）の時は、北朝鮮を攻撃するための軍事計画をトランプ大統領に提出していたが、そのオプション計画には「対北予防戦争」が含まれていた。

　米紙ウォールストリート・ジャーナル（２０１７年３月１日付）が報じたところによると、ホワイトハウスは北朝鮮がＩＣＢＭ発射実験の態勢に入った兆候が見られる際には、「予防戦争」という観点から「先制攻撃」のオプションを内部検討していたそうだ。

　空襲を開始した場合の最初の標的は原子炉、ミサイル生産施設、そして大陸間弾道ミサイル発射台となっている。巡航ミサイルが海上から発射され、Ｆ－２２戦闘機が北朝鮮の防空網を無力化させ、Ｂ－２戦略爆撃機が北朝鮮の地対空ミサイル基地を叩き、Ｆ－３５ステルス戦闘機が北朝鮮の山岳地帯の至る所に隠されているミサイル発射台を粉砕するシナリオが用意されていた。この他にもトランプ政権下では「鼻血作戦」も立てられていた。

　「鼻血作戦」とは相手を先に殴って、出血させることで震え上がらせ、反撃する気を削ぐ作戦のことである。相手の報復を招かないレベルでの制限的打撃を加え、反撃したら、破壊も辞さないとの警告を発する作戦を指すが、どちらにしても、先制攻撃であることには変わりはない。

　米国はすでに寧辺の核施設と咸鏡北道の豊渓里にある核実験施設、ミサイルが貯蔵されている平壌の山陰洞にある兵器研究所と日本海に面した新浦にある潜水艦弾道ミサイル（ＳＬＢＭ）基地などのリストアップを終えているが、北朝鮮からの報復という万一の場合も想定して、北朝鮮施設への空爆ではなく、５０年前に北朝鮮に拿捕されたまま返還されず、北朝鮮の軍事勝利品として展示され、一般公開されている米情報収集艦「プエブロ号」を爆撃、撃沈する案も検討されているようだ。即ち、米国の本気度、見せしめのための攻撃が「鼻血作戦」のようだ。

　一方で、外科手術は出血（返り血）が避けられないことから「次善策」として検討されているのがＣＩＡ主導の「金正恩除去（暗殺）」である。

　「時間が経つにつれ、北朝鮮の挑発を阻止するオプションは狭まる」と、北朝鮮のミサイル発射に苛立ちを露わにしていたＣＩＡ長官出身のポンペオ国務長官が２０
１７年７月２０日、コロラド州で開かれた安全保障フォーラムで「最も危険なのは（核兵器を）支配している人物で、最も重要なのは、そうした（核）能力から（使用の）意図を持つ者を分離することだ」と述べ、「金正恩排除」の必要性を強調したのは公然たる事実である。事実、ポンペオ氏は６日後の２６日に「（北朝鮮相手に）秘密工作を含む多様な作戦を検討している」と述べ、ＣＩＡに「金正恩除去作戦」があることを隠さなかった。

　ポンペオ長官の発言を待つまでもなく、この年の４月７日に放送された米ＮＢＣ「ナイトリーニュース」は米軍高位関係者と情報機関消息筋などの話として「米国家安全保障会議（ＮＳＣ）がトランプ大統領に３つの対北朝鮮戦略オプションを提示した」と報じていたが、その中の「オプション２」がまさに「金正恩除去作戦」であった。

　米大統領が暗殺命令を下せば、偵察・情報収集機や偵察衛星、レーダーなど監視・追跡ネットワークがフルに稼働し、金総書記の動静を追跡、捕捉する。そして居場所が確認されれば、再教育、訓練させた軍人や工作員出身の脱北者を北朝鮮に送り込み、暗殺を企てるーーこれが「金正恩除去作戦」の概要である。

　こうした作戦が成功し、短期で決着が付けば、北朝鮮の非核化という米国の長年にわたる念願が叶うことになるが、北朝鮮が対抗措置、あるいは反撃に出れば、局地戦争から一気に全面戦争に発展する恐れが大だ。

　トランプ政権はシリアのアサド政権が反政府派勢力の鎮圧のためレッドラインである化学兵器を使ったとして２０１７年にシリア空爆に踏み切ったが、北朝鮮外務省は当時「シリアへの米国の軍事攻撃が我々に対する警告的行動であると騒いでいるが、そんなことに驚く我々ではない」との談話を発表する一方、人民軍総参謀にいたっては「（米国は）弱いものを見つけては叩いては強がっている。度胸があるならばかかってこい」と米国を挑発していた。

　北朝鮮は常日頃、「局地戦争には局地戦争で、全面戦争には全面戦争で、核戦争には核戦争と、米国が望むいかなる戦争にも応じる用意がある」と、米国に向け強気の言葉を発している。

　金総書記もまた、今年４月２５日に行われた軍事パレードでの演説で「我が武力はいかなる戦いにも自信を持って準備できている。いかなる勢力も我々との軍事対決を企てるならば彼らを消滅させる」と豪語していたが、仮に米朝戦争勃発となれば、金総書記が「我々の根本利益を侵奪するならば核の先制使用も辞さない」公言していることから想像したくはないが、史上初の核戦争に発展することになるかもしれない。



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